第16話 大ピンチ

少し前に、こんな会話がふと耳に入った。

「水瀬さんって容姿端麗だろ? けどそれだけじゃなくて、なんと……勉強も出来るらしいんだよ!」

それを聞いた私は、「ほぇ……⁉」と変な声を出しまい、咄嗟に口を抑えた。

周りを回したが、運良く誰にも聞かれていなかったようだ。

私はほっと胸をなで下ろし、さっき聞こえた内容を思い返す。

彼は確か……佐野くん? だったかな。

容姿端麗というのも過大評価なのだけど、勉強が出来る?

(ワタシガ? ベンキョウデキル??)

頭の中で何回もリピートされているが、どうも納得できない。

というのも、私は勉強が苦手だからだ。

謙遜している訳ではなく本当に苦手で、中学時代なんかは、何とかついていけていたというレベルだった。

高校生になった今は、もうかなり絶望的で常に崖っぷちに居る。

そんなスリリングを味わっている私が、勉強が出来る? そんなわけない。

出来ることなら「私、全然勉強得意じゃないよ」と訂正しに行きたいけれど……

“どうやって人の会話に入るのが正解なのか”という、ぼっちには酷すぎる壁が目の前に立ちはだかり、何もすることが出来ないまま時間だけが過ぎた。

そしていつの間にか、佐野くんたちの会話は終わってしまっていた。

(__大変だ勉強しないと。期待を裏切っちゃう)

こう思った私は、即行動。

同日の放課後、参考書を借りるべく図書室へと足を運んだ。


しかし、ここで思わぬトラップがあった。

「な、なにこれぇ! ラノベ大量にある!!」

参考書の棚と同じ量、いやそれ以上のライトノベルが端から端まであったのだ。

しかもジャンルは様々で異世界やラブコメ・SFなど、大量に取り揃えていた。

私は好きな作品のアニメ化が決定した時並にテンションが上がった。

そして参考書には目もくれず、一直線でラノベの棚の方へ行き食い入るように見た。

__一体ここからどれくらいの時間が経ったのだろう。

気がつくと外は薄暗く、部活動で残っていた生徒が門を出ようとしていた。

スマホをつけると、登下校を一緒にしている友達からの怒涛の着信履歴と共に18:20と表示された。

「もうこんな時間⁉ まだ参考書見れてないのに!」

私は大急ぎで参考書の棚へ向かい眺めてみたが、どれが良いのか全く分からない。

うーん、と悩んでいると一冊だけ私にも出来そうな参考書を見つけた。

“象でもわかる! 英語完璧マスター”

イラストが可愛いし、象で分かるなら大丈夫なはず! と思い、これに決めることにした。

そしてついでに少し気になった“転生したら村人Aでした(1)”も借り、そそくさと帰ったのだった。

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