第13話 小悪魔な彼女

夏休み直前! といえば何を連想するだろうか。

夏祭りやフェスという人もいれば、毎年最終日まで必ず残っている大量の課題という人もいるだろう。

しかしその前に少し、いやかなり面倒なことがある。

__それは期末考査だ。

俺はそこまで勉強が苦手という訳ではないが、ものすごく効率が悪い。

そのためテスト2週間前からみっちりと詰め込まなければならない。


そしてその日はテストまで一週間をきった授業中のことだった。

昼休みの後の5限目。

朝に寝ぼけていたせいか、教科書を忘れてしまい水瀬さんに見せてもらうことになった。

本当にごめん、と俺が謝ると

「教科書くらい全然いいよ。でも田中君が忘れ物なんて珍しいね」

と水瀬さんは机を寄せながら言った。

水瀬さんと普通の会話が出来るようになった事に内心喜んでしまったが、見せてもらうからにはしっかりとしなければと気を引き締める。

しかし、ここで問題が起こってしまった。

物凄く眠たいのだ。

昼食をとった後でただでさえ眠たくなりやすいのに、前日の夜中に勉強をしていたせいで、2時間しか寝れていなかったからだろう。

授業が始まって20分間は、手をつねったり姿勢を正したりして何とか持ちこたえていたが、もう限界がきてしまった。

「えー、ここで主人公の私はKの覚悟について……」

と説明している先生の声が徐々に遠ざかっていく。

そして俺の頭はノートに吸い寄せられるように落ちていき“ゴンッ”と鈍い音が鳴った。

一瞬で目が覚め、前を見た。

どうやら先生にはバレていなかったようだ。

一先ず安心し額をさすっていると、「ふふっ」と笑っている綺麗な声が聞こえた。聞こえてしまった。

こんなにも綺麗な声をしているのは、クラスに一人しかいない。

もう全てを察してしまった俺は、その授業中一度も横を見ることができなかった。



「起立。気をつけ、礼」

その号令で、やっと授業が終わった。

目すら合わせられなかったが俺は水瀬さんに礼を言った。

その時の水瀬さんの顔はもう忘れることもできないだろう。


小悪魔な彼女はレアだ。

でもこういう風には見たくない、そしてもう二度と寝ないと誓ったのであった。


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