第33話 大願成就
3月の終わり、俺達はついにやった。凡そ6か月ついにやり切った。水の無い用水路。それを見て俺は随分と大それたことをしたんだと感慨深く一本の山から下に延々と伸びる用水路を見つめていた。
用水路は木枠の通り、上の開口部2m幅、深さ1.5m、底部分1m幅の台形断面の用水路が、まだ、北風が寒い松井村の台地に一条の恵みの水を運んでくるのだ。
「水を流そう」
俺は大勢が、工事に携わった関係者が取り囲む取水口から5kmほどの磔柱を立てた神社の境内で声を上げた。
金堀衆の親方、安兵衛さんあなたがいなかったらこんな事できませんでした。鉄砲名人で命の恩人の吉左殿、変わりモノなどと言われていたがなかなかどうしてお話がしやすい人だった。やはり、他人の人物評などあてにならないものだ。佐平次、農民を良く纏めてくれたありがとう。弥平、左元太もありがとう。
残念ながら、この晴れやかな場所にいて欲しい、俺の大切な涼香殿は来ていただけなかった。
取水口の水門を開けて取り込まれた水は、金堀衆が半年かけ作った掘割を勢いよく流れ込み、時折、落差のある段に落ちると、その下で溜水を作る様に考えられれいて、流れの勢いをそぐ。そうして、流れは制御され、穏やかな流速となって最難関の岩盤の掘割を難なく流れてきた。
粘土質の土壌を流れるその後も、順調に、順調すぎるほど順調に流れ、やがて集落のある水田のある用水路として、そこまで水が流れ込み俺達の想いが達成することが出来た。
「それじゃ、粟野村への水門を開けよう」
支流への水門を開ける。支流は2つ、日棚村への南側の低地へと流れる用水路と北側へと流れる粟野村方面への流れだ。これはどの程度の人工、費用負担したかで水の流れ込みの割合を決めておいた。
後はしばらく放置しても問題が無いかを確認するだけと相成った。
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