第19話 安兵衛殿

「親方、いかがでしょうか?」


「安兵衛だ。あんたはウチのもんじゃあねえ。親方なんて呼ぶ必要はねえ」


俺と金堀衆の親方、安兵衛さんは早速、俺の懸案である取水口付近、5kmに渡る岩盤の状態を実際に現地で確認してもらっている。


「これは、花崗岩だな。確かに、あんたら素人ではどうにもなんめえな。でもな、俺達はこんな岩を相手にする商売だ。岩の気持ちは十分に分かっている。安心しな、悪いようにはしねえからよ」


安兵衛さんは不愛想な表情を見せるが、語り口は穏やかで、出てくる言葉は、暗中模索の俺の心に明るい光を示してくれた。


「ありがとうございます。ものすごく心強いです。まったく俺達は工事の事が素人なので……」


「おいおい、気にすんな。その為に俺がやってやるって言ってんだよ。あんたの心意気に面白いと思ったから、やるって言ってるだけだ。それにな、雅の頼み事だ。とても、無下には出来ねえわな」


俺は安兵衛さんの言葉に救われた。


「安兵衛さん、15kmの水路を作るとなったらどのくらいかかりますか?」


「ああ、道中、見ながら来たんだが、上流の5kmを堀割り通すところが一番厄介だろうな。後は、あんたらだけでもなんとかなるだろうよ。何人くらい人工にんくはかけられそうなんだい?」


「大体、200人くらいです」


「200人なあ、下の方は粘土っぽい土だったからな、まあ、それなりに時間はかかるだろうが、人工は掛けたらかけただけ時間は縮まるよ。200人を10kmに割り振れば、俺の掘割と同じくらいに出来るんじゃあねえかな。俺は、この岩盤程度なら半年でやっつけてみせるぜ」


不愛想な安兵衛さんが少し口角を上げて、笑ったような気がした。

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