第14話 鼓舞

 水戸から、親戚筋の友人の父上から手紙が来た。

土木の責任者だ。

松岡からの見積もりが高くて技術的にも難易度が高くて、とても実行出来そうもないと書いてあった。


工期:3年。費用:1億。


妥当なのか?この値段。妥当なのか?この工期。


ここにきて、あの小役人、半分くらい自分の懐に入れる気だな、くそっ!こういうやり方か。

計画が早々に頓挫した。


「皆の衆、どう思う?」


「やっぱり、無理だったのか」


「良い夢だったな」


「出来ねえんかあ……」


どうするか、どうするか……


「ウチも娘っこ売らねばなんねぇが……」


「皆の衆、今日のところは、一旦、お開きにして、もう一回知恵を持ち寄って……それから……」


俺が会合の終了を宣言しようとした時に、客間のふすまが急に開いて、


「何を言っているのですか! 兄上!! 明日になったらいい知恵が出るというのですか? いつものように逃げるのですか、兄上は! 


出来ない事は専門に任せればよろしいではありませんか。簡単な話です、専門家を探し出せばよろしいのでしょう? 探して、お金の話をして、お金が足りなければ、周りの村に声をかけて人を集えばよろしいではありませんか、水が欲しいのはこの村だけではございませんよ」


まっすぐに俺を見ていた涼香殿は、皆の衆を見渡し、


「あなた達も、その程度であきらめるのですか? 一体、誰が一番困っておいでなのです? 一番困っている者が一番声を大きく上げなくていかがいたしますか! その程度であきらめるのなら、所詮はその程度の甘いお考えだったのでしょう。


やってもらえなればもう終わり? ご自分でなされたらよろしいではありませんか?

夢から覚めた? まだ夢すら見ていませんよ。

娘を売る? 甲斐性なし、自分の身体でも売って来い!


ふざけないで! 


あなた達はまだ何もしていない!! やったような事を言わないで!!!」


涼香殿は、少し、いや、かなり怒り加減だけれど、慈愛に満ちた顔で俺達の前に立ち、全員を見渡してそう言った。


下を向いて、もはや何処で負けを認めたらいいのか、落としどころを、負け方を探していた俺達に向かって、あきらめるなと、まだ、始まってもいないと俺の大切な妹は俺を俺達を鼓舞してくれた。

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