第37話 輿入れ
4月吉日。
「兄上、今まで、身寄りのない涼香をここまで育てていただいてありがとうございました」
「松岡の家に行っても可愛がってもらいなさい」
三つ指をついて母が用意した打掛に白い角隠しで俺に挨拶する涼香殿の挨拶を俺は家長として聞いていた。
夕暮れ前、今から涼香は慣れ親しんだ松井の家を出て、7km離れた松岡の名主の家に嫁ぐ。良いのか?本当に良いのか?後悔しないのか?
これから、この話をひっくりかえしたら、どれほどの者のカオを潰すことになる……
ダメだ、俺の気持ちだけでこんな大それたこと出来るはずが無い。遅い、遅すぎた、用水路を完成させて、安定した村に出来たら、俺は、涼香殿に思いを伝えるつもり……………………だった。
「名主、行くべ!」
皆の衆……それに、安兵衛さんまで、
「涼香の嫁入り道具を運ぶ人工を皆様にお願いいたしました。皆様も喜んで。と、この様にお集まりくださったのです。惣佐衛門殿からもちゃんとご挨拶くださいね」
母が、門の前に居並ぶ皆の衆に向かって一礼して、俺に向き直り言ってきた。
確かに、俺は。この件に関して、全く口出しというか、全く相談すらされていなかったので、知らなかったし、皆の衆からも何ら話が出なかったから、正直驚きである。
「すまない、皆の衆、よろしく頼む」
良い笑顔で集まる皆の衆に向かて俺はとりあえずの挨拶をしてみた。
全員が嬉しい感じで見ているけど、そんなに嫁入り行列って楽しいの?
涼香殿を、嫁入り衣装の俺の愛する妹………涼香殿を馬の背に乗せて、俺はやり切れない思いを持って門を出た。
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