第21話 小役人ヤマガタ

「このように、人工にんくもそろいました。金子も我々が用意いたします。どうか、工事のご許可をお願い致します。


松岡の小役人の前で説明した後、頭を下げている真最中。

相変わらず、小ばかにした態度を、視線を俺に向けてうっすらと口元を緩めている。


「金は出来た、人工も用意した。それで、我らに、我らの見積りが誤りだから、お前達がやってやると、そう言いたげだが? そういう事で良いのかの?」


耳にキンキンくる高い声で、俺を威圧する。


「滅相もございまいません。我らの持ち出しで何とかやり切れそうなので、許可だけでもいただきたくて参りました」


「ほう~、1億もの金子がお前達貧乏村で工面できたと、そういう話か? 大したもんだのう……それで?いつから始めるのだ」


「9月、または10月から始めたいと思っております」


「来月ではないか……して、いつに終わる」


「はあ、恐らく春には終わらせられるかと」


「ふざけるな!! 我らの見積りでは3年だぞ、お前らごときが何で半年で終わらせられるのだ。なんの嫌がらせだ。やっぱりできませんでしたは聞けんのだ。お前、ふざけるなよ!」


小役人が口から泡を飛ばして俺に睨み凄んできている。

またか、お前がそもそも、やる気のない、やらないように仕向けた見積りだろう。実際の工期がどれほど反映されていたのか、天に唾するとはこのことだ。お前のしたことがお前を苦しめる、なんら不思議な話ではないだろうに。


しかし、この小役人がやって良いと言わない限りは先に行かないのも事実なのだ。


「私共はこの用水路が無いと米が出来ないのです。これに全てを掛けているのです。どうか、どうか工事のご許可をお願いいたします」


「知るか、お前らの生活など俺には何ら関係があるか、帰れ帰れ」


そう言うなり、奥に引っ込んで二度と出てこなかった。


小役人め、どうするか、こんな事で俺は引き下がらない。あきらめない、絶対に。


村の行く末がこれにはかかっているんだ。関係した人たちの想いと、俺自身の想いを乗せているんだ。この程度の小役人に潰されていい話なんかじゃ無い。

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