第29話 え?

 3か月が過ぎた年の瀬。

工程は順調に消化され、凡そ40%の進捗だ。残り、1,2,3月の3か月。毎日、雨の日以外は200人を休みなく3か月間投入している。


夜に俺が屋敷の奥の間でボーっと虚空を見ていたら、


「惣佐衛門殿、お話が」


母上が……お小言か?俺はとりあえず身構える。


「涼香に縁談が来ておりまして、如何いたすか、当主である惣佐衛門殿にと思いまして」


「え? え、縁談ですか」


明らかに動揺してしまった。


「隣の松岡の佐貫様から涼香を嫁に欲しいとお話がありました。あなた方、代官所の前で大立ち回りを演じたらしいではないですか。それを見ていて涼香を見初められたらしいですよ」


母上が俺をまっすぐに見て答えを待っている。

松岡の名主であれば、ここの様に日照りで不作に悩むような生活をしなくて済む。悪い話では無かろう……しかし、……………………。


「よろしいのでは無いですか」


俺には、妹の幸せを考える義務がある。

俺はその方が良いだろうと、その方が幸せになるのだろう、外の家にとつがせる方が幸せになるのだろうと考えて、そう答えた。


俺はうっすら微笑んでいたと思う、いや、笑顔を作った。


俺の顔色を伺っていた母上は、少し、視線を脇の方に逸らし、目を瞑り、一つ小さなため息をついて、


「惣佐衛門殿がよろしいのであれば……それで進めますよ」


それだけ言うと、俯いて、目も合わせずに母上は客間から消えていった。

俺には、母上の言いたい事は分かっていた。

俺には理解できていた。

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