第16話 雅太夫

「雅太夫、主の情夫いろに金堀衆はおらんか?」


俺は青凪楼のひいき、雅殿と色んな物を通わせたあと、布団に仰向けになり、俺の肩に頭を乗せ、腕を胸あたりに乗せて、でうなだれる彼女に訊ねてみた。


「そうですねえ、おいでですが、なぜでございますか?」


俺の顔を見上げるように向き直ると俺は雅太夫に事の経緯を話しした。


「そうですか、私も元は百姓の娘でした。同じ様に凶作で妹、弟のおまんまにも困り果て、とうとう12歳の時に売られました。そん時にあなた様みたいな名主様がいてくれたら、私も別の人生を歩いていたんでしょうねえ」


俺の肩口でため息をつく太夫に俺は、


「無粋な話をしちまったな、すまないね」


「いいえ……惣様、ふみを書いておくんなまし、私が今度、事情を説明してお渡しいたしましょう」


俺は、俺達はあの日、涼香殿に鼓舞された時から、独自に計画を進める腹をくくった。先ずは、どう考えても最難関の取水口予定地からの岩、いや岩盤の掘割だろう。これには金堀衆の力が不可欠だ。そいつらは、文字通り、金鉱山の穴掘りを生業にする技能集団だ。俺は絶対にそいつらが廓に来ないはずが無いと踏んでいた。だって、山の中で穴掘りとか、ねえ……。


そして、金を集めるため、人を集めるために、近辺の名主にも声を掛けた。涼香殿が言う様に確かに水に困っている村は山ほどあるのだから。


金堀衆、予算、後はなんだ?


勝手に掘っても良いのだろうか? また、あいつらに話をしないといけないのだろうか?あの小役人に。

俺は雅殿の甘い髪の匂いを堪能しながら天井を眺め物思いにふけっていた。

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