第144話 11月5日 土曜日31

 駅で九条さんに捕まった俺と胡乃葉――何故か。何故か一緒に逃げる?避難?することになった――なろうとしていた。

 いや、あれからすぐ九条さんがね。胡乃葉の腕を捕まえて離そうとしないんだよ。


「おお、胡乃葉ちゃん――いい触り心地」

「ちょ」

「程よい抱き加減」

「わっ。ちょ」

「……」


 これは――なんだろうな。スキンシップではないが――いや、スキンシップ?九条さんがぺたぺた胡乃葉の身体を――って、何を駅でしているのか。

 ちなみに捕まった胡乃葉は胡乃葉で、唐突なことだからか、おろおろで何も言えなくなっている。


「九条さん。駅で変な事しないでください」

「ならどっちかの家でモフモフしていいってことだね」

「違います」

「先輩。これどうなるんですか?」

「知らん」

「まあまあ」

「いやいや、九条さんがややこしくしているような――ってか、いろいろ起こしているような――」

「ってか、話していてもだし。人も増えてくるかもだから――はい。二人じゃんけん」

「「はい?」」


 ほんといろいろと唐突に言ってくる九条さん。

 ってことで、その後九条さんの案により。ホントに俺と胡乃葉がじゃんけんをすることに――いやいやなんでそうなる。だったが。でも九条さんが上手にその流れにしたというか。俺もそろそろ帰りたくなってきていたし。とりあえずじゃんけんをしないと先に進まない感じだったので、胡乃葉と何故か駅でじゃんけんすることになったのだった。その結果は――。


「――負けました」


 胡乃葉があっさり負けた。俺がパー出したら胡乃葉がグーだった。以上だ。ちなみに本当は俺が負けた方がよかったのかもしれない。だって、いきなり先輩が家に――に胡乃葉はなるからな。だから俺はすぐに小声で胡乃葉に声をかけた。


「っか、胡乃葉。こういう時こそさっきの勝者の――」

「それは使いません」


 あれ?せっかく俺が思い出して提案したのに――それに胡乃葉は乗らなかった。って、良いのか?このままだと九条さん本当に行きそうだが――などと俺が思っていると。コソコソがバレたらしい。


「あれれ?なんか2人で面白そうなこと言ってる?もしかしてなんでも言うこと聞く権利とかある?あるね。うんうん。何命令するの?」


 どうやら俺の小声。このすこし騒がし駅でも聞こえていたようだ。なんでだよ。そこそこざわざわしてるじゃん。九条さん耳良すぎ。


「九条さん。ホントノリノリだな。ってか、胡乃葉。なんか流れでじゃんけんしたが――俺は俺で勝手に帰るから九条さんを――」

「いやいやいやいや、先輩。酔っ払いの相手任せないでくださいよ」


 あっ、胡乃葉もやっぱり酔っ払いと思っていたらしい。


「ちょっと。米野さん。私酔ってないよ?」

「「――」」


 いやいやという表情で九条さんを見る俺と胡乃葉。


「ちょっと、2人とも無言やめてよ」


 だって。九条さんめっちゃ楽しそうな表情だしこれは――飲んでないだろうが。楽しんでいるからね。ホント面倒っごとに巻き込まれたよ。多分しばらく九条さんは俺たちと一緒にいるとみた。


「クルトン発見!」

「「「えっ?」」」


 すると、後ろからだった。急にさらにさらに聞きなれた声――って。旺駆里だよ!?なんでだよ。

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