第2話 迷子
これはざわざわと多くの人が行きかうターミナル駅の隅っこでの出来事。
少年と少女が話している。少年の方は身軽。特にカバンなどの荷物は持っていない。持っているのはビニール袋。ドーナツのイラストが描かれたビニール袋だけ持っている。少女の方はキャリーケースを持っている。少女自身が小柄だからか。通常サイズのキャリーケースと思われるが大きく見えている。
この少年少女は数分前にこの場所で出会ったばかり。そのためか少女の方はオロオロしているが。少年の方は普通に接していた。そして少し時が経つと――こんな会話が聞こえてきた。
★
「ほら、これやるよ。これ持って行け」
「——え、えっ?な。なんで――?どうして?」
少年がずっとオロオロしていた少女に持っていたビニール袋を差し出している。少年が持っていたドーナツのイラストが描かれているビニール袋だ。よく見ると。ドーナツを売っている全国チェーン店のお店の袋のようだ。
何がどうなってそのようなことになったのかはわからない。でも少年の方は少女にずっと差し出している。少女の方は完全に困り顔だ。あと、何があったのかわからないが少女の方は今にも泣きそうな表情をしていた。これは――この少年が?だろうか?それと――。
これは誰かが止めに入った方がいいのだろうか?でも今少年少女の近くには人が居ない。なので気が付いていない人の方が多いだろう。
すると、少年の方が無理矢理少女に持っていたドーナツのイラストの描かれたビニール袋を持たせた。少女は困っている。少年の方は何故か笑顔だ。
状況がいまいちわからない。
少女の方は無理矢理渡されたビニール袋を見ている。下を向いたので、こちら側からは少女の顔が見にくく。さらに少女は、腰あたりまである長い髪を持っている。なので下を向くと髪により完全に顔が見えなくなった。
「——ほら、これ持ってその――のところ行ってよ。——食べようと思って買いに寄ったら並んでて――に乗り遅れ――――いじゃん」
「で、で、――こ――」
それからすぐ、また少年が少女に話しかけたが。ちょうどこの時駅構内に放送が流れたため会話が一部聞き取れない。様子からわかることは――少年は初めから変わらず笑顔で何か言っており。ビニール袋を受け取った少女はオロオロでも少年の方を見ているのか。顔が上がった気がする。
「——からいい――。また――うし」
「で――」
「——じゃ、——になるなよ。あっ――番後ろの――行けば――がいるから、車掌——ば乗——えてくれるか――――」
「あっ待っ――」
「早く――行かな――らに――ぞ」
「——」
駅構内の放送とさらに電車が到着したことで、少年少女の会話はほとんど聞こえなくなった。そして少年の方は話し終えると手を振りつつその場を離れた。少女の方は困ったようにそのまま立ちすくんで。ドーナツの袋見たり。駆け出した少年の後ろ姿を見たりとしている。
何が起こっていたのかこちらにはわからない。するとその後すぐだった。少女の姿もなくなった。
一瞬だった。どうやら他の乗客に紛れてしまったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます