第76話 10月30日 日曜日7

「——ふぁあぁぁ……」


 しばらく胡乃葉と話していると。ちょうど室内も日差しが入りぽかぽか気候となり眠くなってきた俺。盛大にあくびをしていると――。


「先輩?」


 しまった。今は胡乃葉がスマホの画面を見せつついろいろ話してくれているんだった。こんな時に寝たら――怒られるというか。飽きられるというか。悪いことをしたというか。とにかく悪い。だった。


「悪い、昨日遅かったのが――今頃睡魔が来た」

「そういえば先輩言ってましたもんね。それに日差しが気持ちいいですね」


 胡乃葉はそう言いながら一度スマホを膝の上に置いて窓の方を見た。


「悪い。ちょっとストレッチ――」

「先輩」

「うん?」


 話が一度止まったところ。というか。俺が止めてしまったのだが。でもこのままだと俺寝てしまいそうだったので、眠気覚ましでもしようとしたら、胡乃葉が俺の服を掴んできた。


「——えっと、どうした?」

「良いですよ?お昼寝タイムでも、ぽかぽかですから」


 優しい笑顔で胡乃葉がそんな提案をしてきた。って――とっても魅力的な提案というのか。嬉しいお誘いというか。って、後輩の前で寝ます。という選択肢にはもちろんならなかった。


「いやいや、ってか、雑談しているだけになっているが。胡乃葉的にはいいのか?」

「全く問題ないですよ?良いじゃないですか。のんびり過ごすのも。休みなんですからね。それに土日はどこ行っても混んでますから。こういうのがいいんですよ」

「まあ……それはそうか」

「ってことで――寝ますか?先輩」

「大丈夫だよ。胡乃葉に悪いから」

「いや――えっと、今なら――膝枕とか?」

「あのな――」


 何その素晴らしい提案だったが。

 いきなり後輩にそこまでしてもらうのは――何と言うかおかしい?というか、いや、なんやかんやで俺達はもうそこそこの期間会ったりしているが。お店でというばかりで。こうしてお店以外で会うのは初めてであって、それなのに昼寝というか。膝枕?はダメだろうというか。とにかく後輩にそんなことをさせてはいけないだろうということで。俺は背伸びをとりあえず立ち上がる。


「大丈夫だ」

「あっ――いや無理しなくてもいいですよ?私がいきなり頼んだようなものなので」


 俺が立ち上がると、少し胡乃葉が残念?そうな表情をしたのは気のせいだろう。


「問題ない問題ない」

「——ってか、むしろ先輩とのんびりしていたら眠くなってきましたし」


 すると座ったまま背伸びをする胡乃葉。って、気が付いたらめっちゃ寛いでいるな胡乃葉も。


「あのな――えっと、男の部屋でいきなり寝るな」

「ふふっ。先輩は大丈夫ですよ」

「何でそんなに信頼があるのか」

「ドーナツ好きの人に悪い人はいませんよ」

「そう来たか。ってそれどうなんだ?」


 ちょっと胡乃葉の言葉に呆れつつではないが。

 でも何故かそれはすごく納得言うか。俺の中では説得力がある言葉だった。

 いや、今までも俺が出会ってきた人と言うか。基本ドーナツ好きっていい人と言うか。今のお店のお姉様とか店長さんもだが。いい人なんだよな。お姉様はちょっと――があるけど。あと、一時期俺がいろいろなお店を回っている時も、基本どこ行ってもいい人と言うか。雰囲気がいいからか。みんな親切だった。ってか、やっぱドーナツ最強ってことでは?

 そうだよ。ドーナツあればなんとかなるってやつだな。って――胡乃葉よ。今この場にはドーナツはないぞ?だから――どうなんだろうか?いや、胡乃葉のスマホにはドーナツサンドイッチの画像。って俺は何を勝手にいろいろ想像しているのだろうか?大丈夫か?俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る