第77話 10月30日 日曜日8
「——です。って――先輩?」
「うん?あっ、悪い。ちょっと違う世界行ってた」
「さすがドーナツ先輩」
俺がちょっと違う世界に行っている間も胡乃葉は何か話していたらしいが。悪い。全く聞いてなかった。
「——って、言い方がおかしいぞ?」
「ごめんなさい。って、先輩本当に金曜日の夜はドーナツだけですか?」
「えっ?そうだけど?」
「健康的に――って健康そうですね」
胡乃葉が俺を上から下まで見てくる。
「まあドーナツだけと言いつつ。そこにたどり着くまでというか。金曜日は講義が多いから大学で講義と講義の間につまんだりしているからな。完全にドーナツだけでないし」
「なるほど」
「それに1週間お疲れ。は身体に必要なんだよ」
「それもわからなくはないですが――さすがにドーナツだけは――私も最近先輩と同じになっているので……ってか。先輩と居ると太っちゃいますよ」
「大丈夫だろ?」
「その自信はどこから――」
「胡乃葉細いし」
「そ、そうですかね?」
そう言いながらビーズクッションに座りつつ自分の二の腕やお腹周りを触る胡乃葉。はっきり言っておくが。無駄は何もないと思う。余計なことを言うと――ってこれはいらないな。一瞬頭の中に胡乃葉の一部を見て思うことがあったが。飲み込んだ。でも――。
「できれば太らずに身長が欲しいですね――それと胸も」
「ぐはっ」
「えっ?先輩?」
「いや――なんでもない」
まさかの思っていたことをさらっと本人が言うとは――さすがにまさかだったので変な反応をしてしまった。
でも胡乃葉。今のままでも俺はいいと思うぞ?すると胡乃葉は何かを感じ取ったのか。
「あー、わかりました。今先輩もこいつチビだなー。胸ないなー。って思ってましたね。もう。わかってるんですよ。でも自分じゃどうしようもならないこともあるんです」
「——思ってない思ってない」
思っていた。とはもちろん答えれなかった。思いっきり頭の中に残っているからな。
「先輩。間がありました。正直に言っていいですよ?怒りませんから。わかっていることですから。何しても伸びないし。まな板なんです。お腹しか大きくなりません」
胡乃葉さん。何故にこんな話になっているのでしょうか?返事に困るのですが――って、ホントなんでこんな話になっていったのだろうか?あれ?俺がドーナツ最強とか自分の世界に入ったから?というか。俺が自分の世界に入っている間に胡乃葉が話していたことが思い出せないから――俺が悪いな。胡乃葉の話をちゃんと聞いてなかったし。って、今は胡乃葉のご機嫌が悪くならないように頑張らないとな。
「——いや、ホントに思っていません。はい。ってか。胡乃葉細いから。うん」
「大丈夫ですよ?って、実は私。友達とちょっとした同盟結んでるんですよ」
「同盟?」
突然何か話が始まった。『同盟?うん?一緒に何か戦うのか?』だったな。
「同じ学年の子なんですけど、私と同じで小柄でかわいい子が――あっ。気持ちだけ私の方が身長はあるはずです。はい。私の方が大きいです。まだ勝っているはずです」
いや、何の話?って、これこの後どんなことになっていくのだろうか?俺が聞いていていい話なのか?
「えっと――胡乃葉。戦いの話じゃないよな?」
「違いますよ?チビ同士慰め合うんです」
「慰め合う?」
「いや――だって、大学ってかスタイルいい人多いじゃないですか」
「そう……かな?」
胡乃葉と話しつつふと大学の光景を思い出す俺。確かにそりゃモデル?というのかすごく目立つ人はよくよく見るような――って、そういえば昨日の九条さんとかも。よくよく考えたら普通にスタイルいんだよな。本人は『またお肉が増えたー』ってことを言っていた気がするが。あれは適度に――というか。九条さんあれベストというかあれこそ平均では?って、平均以上では?あと、昨日は触れることがなかったが。改めて思い出すと――胸はあったな。
いや、あったからなんだというのだが。俺——あまり胸には引き寄せられていないか。旺駆里とかなら――即だろうが。でも、あった。と、意味の分からないこと?かな。俺がそんなことを思い出していると。
「——先輩?顔がにやけてますよ」
ヤバい。胡乃葉にじーっと見られているんですが……俺やらかした?
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