第18話 199X年 6月 1/2

 6月になるとカラオケ店は少しだけ暇になる。だけどこれは夏休み前の小休止。7〜8月は学生たちの客が増えて忙しい。2号店にとっても、嵐の前の静けさと言ったところだろうか。


 俺も6月だけはなるべく中番を増やす様にした。契約社員の俺は、バイトが少ない早番以外のシフトの穴埋め的な存在だ。故にあまり個人の希望は通らないのだけど、この6月だけは特別に許可をもらった。


 中番になれば、絵未と会う時間が増える。


 互いに仕事がある日でも、家に泊まりに来る事もできる。だけど、年頃の女の子をあまり外泊させるのもどうかと思う。


 なので、俺が仕事が終わる10時まで待っている絵未を、ただ自宅に送ってあげる事も多かった。その際は高確率で、絵未の自宅の側にある広い空き地に車を止めて、情事にふける。絵未は恥ずかしがりながらも、いつも素直に受け入れてくれた。




「ねえ武志くん。せっかく時間が合う時期なのに、送って貰うだけじゃ寂しいよぅ」


 午後10時半。絵未を送る車内の中で、少し甘えた声がそう訴えてきた。



「……そうだけどさ、週二は泊まりにきてるじゃん。あまり家に帰らないと、親が心配するんじゃないの?」


「大丈夫。ウチの親、そういうのオープンだから。武志くんの事も話してるし」


「オープンったってねぇ……。それにいいの? 週四も家に泊まったら、絵未ちゃん足腰フラフラになるけど」


「足腰フラフラ……? って、そっちの話か! まったく武志くんは、いっつも二回はしてるのに……まだ足りないのか!」


「うん。だって好きだから。これが理由じゃダメ?」


「うう……ダメじゃないけど、体が壊されそう……」


 絵未は少し赤くなりながらも、むむむと何かを考えていた。そして何かを閃くと、咲いた花の様な笑顔で俺を見た。


「そうだ! 今度さ、私の家に泊まりにこない?」


「は、はいいいいぃぃぃ!?」


「うん、そうしよう! 私の部屋なら武志くんのエッチさも少しは収まるだろうし。ね、そうしよ?」


「ちょ、ちょっと待って! だって絵未ちゃん、実家じゃん! そこに泊まりに行く? ええええ?」


 この発言には流石に俺も狼狽した。そりゃ確かに女の子の実家で情事を重ねた事もある。だけど、だいたい相手の親がいない時とかだし、ましてや泊まった事なんて……今まで一度もない。


「大丈夫だよ。お父さんも『一度見てみたい』って言ってるし、武志くんの家に泊まっている事も知ってるし、反対なんてされないよ」


「そ、そういう事じゃなくてね。心の準備ってものが……」


「じゃあ来週の火曜にしよう? それまで心の準備をしといてね。お父さんも喜ぶだろうなぁ」


 そういうものなのか? 嫁入り前の娘の彼氏が泊まりにくる事を許す親って……島崎家、なんかズレてない!?

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