第15話 199X年 4月 1/2
4月に入り休みを合わせた俺たちは、2号店の裏口である人物を待っていた。
「あ、来た来た! おーい! かっちゃーん!」
そう。今日はバイト仲間の『かっちゃん』を呼んで、三人で飲む約束をしているのだ。
絵未と俺の関係は、2号店内で秘密を保ったままだ。時間的に接点がある時でも店内ではなるべく親しげに会話をしないようにしている。大まかな連絡は家の電話で取り合い、細かい待ち合わせの場所や、何気ない甘いやりとりは、俺のロッカーに小さな手紙を残してくれていた。
誰にも言わない秘密のままでもいいかなと思っていたが、絵未が突然言い出した。
『かっちゃんには言っておいた方がいいと思うの。だって、私たちのきっかけを作ってくれたのもかっちゃん主催のクリスマスパーティーだし。かっちゃんは信頼できるから、何かあった時、助けになってくれるよ、きっと』
確かにかっちゃんは、バイトの中でも中心人物だ。それにまだ半年ほどの付き合いとはいえ、なかなか男気のある奴だと俺も思っている。歳は確か俺の一つ上だけど、本店からの出向者の年下の俺にも、節度を持って接してくれる。
感謝の気持ちも伝えたいし、気心のしれた仲間に隠し事はしたくはない。それが絵未の考えだった。
……まあ、信用できる味方はいても困らないしな。
はぁ……それにしても……。俺の頭を悩ませているのはその事ではなくて。
「ごめんごめん、遅くなって……って、え、どうしたのその髪! バッサリ行き過ぎじゃない?」
「えへへ……どう? 似合う? 初めてのショートカット」
絵未は戯けてクルクル回った。
かっちゃん……わかるよ、その気持ち。
待ち合わせに早く着いた俺は、絵未が駆け寄って来たとき、最初誰だか分からなかった。
絵未は今日待ち合わせの前に美容院へ行き、自慢のロングをショートにしてきたんだとか。
おかげでかっちゃんが来る間、ずーっと絵未の「似合う? 似合う?」と言う無限ループの問いかけに、俺はただ、ひたすら頷く作業を繰り返していた。頷きすぎて、ちょっと首が痛い。
『武志くんが好きだっていうからショートにしたんだよ。小学生からずっとロングだったのに、なんて健気なんだろう、私って』
よよよと泣き真似をしながらそう言う絵未が、たまらなくかわいく思えてしまい。
———かっちゃんとの約束がなければ、絵未を小脇に抱え、そのまま駅前のホテルに連れてったところだ。
「さ、メンツも揃ったし、行きましょうか」
ご機嫌の絵未を先頭に、俺たちは駅前の居酒屋へと向かった。
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