第8話 199X年 12月 3/3
翌日、俺は仕事終わりの愛美を呼び出した。
「ごめん。もう君とは二人では会えない。君の部屋にも、もう行かない」
「……どうして? 他に好きな人でもできたの?」
……絵未の事は、言えない。
絵未と愛美は同じシフトで早番同士だ。二人の仲に亀裂を入れるわけにはいかない。
「……黙ってないで教えてよ! それくらいは答えてくれてもいいでしょう?」
「うん、好きな人ができた」
「でも……私の方が阿藤くんの事、きっと好きだから! 考え直してよ!」
愛美はなかなか首を縦には振らなかった。
仕方ないので、秘密兵器を出す事にする。……できれば、これだけは言いたくなかったが。
「愛美ちゃんさ、2号店の社員と、付き合ってるんでしょ?」
店長の嵐山と強引に2号店へと出向させられて早2ヶ月。それだけいれば、俺たちだって少しくらいの情報は手に入るってものだ。俺たちが出向した穴埋めに、2号店の社員が一人、本店へと異動になっていた。その社員と愛美は付き合っているらしい。
全部、かっちゃんからの情報なんだけどね。
「……そ、そうだけど。もう私の中では阿藤くんの方が好きなの。そっちは別れるから……ね、お願い。考え直してくれない?」
ぞわりと嫌悪感が、背中に走った。
愛美と関係を持った後で、この情報を知った時も「ああ、彼氏が側にいない間の代わりか」と、俺は心の中で納得していた。互いをひた隠した火遊びなら、俺も数え切れないほどしているし、別に責めたりはしない。墓まで持っていけば済む話だ。
だけど愛美は「別れるから」と言った。眉間に皺が寄るのが、自分でもわかる。
絵未は「ちゃんとしてから」と俺に言った。結果として、相手を傷つけ悲しませる事はどちらにせよ、同じなのかもしれない。だけど、重みが違う。相手を気遣う言葉と自分よがりな言葉の落差に、足元が少しだけぐらついた。
「ごめん。……無理だ。やっぱり無理だと分かった」
そして絵未にますます惹かれていく自分に、改めて気付かされた。
愛美はその言葉を聞いて泣き出すと、俺の前から走り去った。店の裏側なので、誰も見られていない事が唯一の救いだった。
「……ふぅ」
俺は小さく息を
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