第3話 199X年 9月
カラオケ店でのバイトも二年半が過ぎた頃、俺は社長に呼び出された。
「阿藤くん、契約社員として働かないかね?」
カラオケ店は、はっきり言って利益率がいい。
一室の室料は1時間3,000円。客を部屋に案内すれば何もしないでも、それだけの利益が得られる。さらに大体のお客は、お酒やつまみを注文する。
平日は5万程度の売り上げも、金曜土曜ともなると、40万近い売り上げを叩き出す。駅からのアクセスもよくない部屋数10室ほどのカラオケ店でも、週末は二時間待ちなんて当たり前。まさに大盛況だったのだ。
加えて母体となる会社は、カラオケ機材のリースを生業としている。その本社のワンフロアをカラオケ店に改装しただけの店舗だった。賃料はかからない。経営者としては、笑いが止まらないほど儲かっていたのだと思う。
そして俺が契約社員として雇われたのにも、次の戦略があったからだと、少しして知る事になる。
「店長、聞きました? 駅前に2号店がオープンするって話」
「バーカ。俺は店長だぞ。お前が知ってる話、俺が知らないわけないだろう」
店長の嵐山は俺にそう言った。
「改装中の店内を見てきたけどな、すっげえ広さだぞ。40室は作れそうだ」
正社員であり店長の嵐山は、既に社長と工事中の2号店を見てきた様だ。
「まあ、俺たちには関係ありませんね」
「いや……それがそうでもないんだ。2号店オープンにあたり、社長はどっかの飲食店から社員をヘッドハンティングしてきたそうだ」
「それが、
俺はいまいち話の全貌が理解できず、頭を捻る。
「……そのヘッドハンティングしてきた奴の中から一人、支配人として、俺らの上に立って仕切るらしい」
「え? 俺らの方が本店なのに? 嵐山店長がトップになるんじゃないんすか?」
「2号店は大型店だ。やっぱそれなりの経営知識が必要な人間が、必要なんだとよ。2号店は社員を四人と数十人のバイトで回すらしい。新しい体制作りが必要なんだって、社長から説明された」
契約社員と言っても、今まではある程度好きにシフトを入れて、遊び回っていた俺は、堅苦しい枠組みに入れられた事を早くも後悔し始めた。
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