第40話 現在 2/4

 最後のデモテープの不採用通知が届くと、闇カジノのバーテンをすぐに辞めて、就職活動を開始した。


 『何かを造る』という楽しさと面白さを再認識した俺は、知識の豊富さを買われて音楽雑誌の編集の職に就く事ができた。


 それから二度ほど転職して、中規模の広告代理店へと流れ着いて今に至る。昨年、勤続10年の勤労賞も貰った。


 絵未に本当の「さよなら」を言った後、いくつかの恋愛も経験した。うまくいかなかった事もあったけど、相手を傷つける事だけはしないと、それだけは心に誓って相手に接した。


 そして最後の恋愛が実を結び、結婚をした。俺にはもったいないくらいの優しい妻だ。容姿は違うが、どこかに絵未を重ね合わせたのかもしれない。


 晩婚だったため子宝には恵まれなかったが、今ではそれでもいいと思っている。


 

 ———あの電話の日から、20年。



 その後は一度も絵未と話しをしていない。連絡先も消してしまったし、俺もあの時から携帯の番号を変えている。連絡など取りようもない。



 だけど不思議と、絵未の夢を見る事があった。



 ドライブしている夢。


 並んで歩いている夢。


 楽しく会話をしている夢。


 優しく抱き合っている夢。



 そのどれもがとてもリアルで、まるで本当の絵未が側にいるかの様な夢だ。



 その夢は二、三年くらい見ない事もあれば、月に一度のペースで見る事もあった。


 未練だとか、そういう気持ちではないと自分でもわかっている。


 ただ、あの短い三年弱の絵未との思い出が、俺の心に鮮烈に焼き付いているだけだと思っていた。



 次に、その夢を見るまでは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る