第36話 半年後
絵未と別れてからも、週一くらいの頻度で連絡を取り合った。
いつもと変わらずに絵未は電話で、その週にあった出来事を楽しそうに伝えてくれる。
———笑ったり、むくれたり、時に励ましてくれたりと。
絵未と話していると時間の感覚が麻痺してしまい、ついつい長電話になってしまう。絵未の声を聞いていると、自分の心の黒く染まった部分が洗浄され、安らいでいくのがよく分かる。
そして俺は絵未の優しさには抗えず、月に一度ほど絵未と会った。
俺から誘う事もあれば、絵未から誘われる事もある。
互いに会いたい気持ちを押し殺しながらも、止めどなく溢れるその気持ちが心の器から溢れ出た方から「会おう」と言葉を絞り出す。
直接それを聞いた訳じゃないけれど、絵未の態度を見ていれば、それくらいは感じ取れる。それは絵未から見ても同様なのだろう。
会った日は、今まで会えなかった時間を取り戻す様に、長い時間をかけて肌を重ね合った。
ただ、自分の部屋にはあの日以来、一度も呼んではいない。
少しずつだけど、絵未と普通に接する事ができる様になってきたとは思ってる。
もう一度やり直したい気持ちはもちろんある。だけどそれには、あの日の事をちゃんと説明しないといけない。
嘘をつくのが嫌いな絵未と、ちゃんと向き合うためには、避けられない事だ。
だけどこれ以上、絵未を傷つけたくはない。
あの日の姿———俺の家に来てくれたのに、追い返してしまった時の絵未の小さな背中が、どうしても頭から離れなかった。
心の底から信頼され、そして愛した人を裏切る事が、こんなに辛いなんて。
俺はどうしたら許されるのだろう。
何をすれば、昔の様に心から笑い、絵未に向き合えるのだろうか。
昔の俺ならこんな事、考えた事すらなかった。自問自答を繰り返し、時間だけが過ぎていった。
そして半年後、絵未から「2号店を辞めた」と連絡をもらった。
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