第35話 6+1
☆ ☆ ☆
洋太は五番目の男の話を聞きながら、勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべていた。
「今日も、前の話と同じだな。
今度は女が男になっただけで、同じ電気ショックでの自殺だ」
そう言い、男の目の前で鉄格子をガタガタと揺らし、
「ギャーッ! 電流がぁぁ!」
と騒ぎ立てて見せる。
当然、赤いボタンを押してはいない。
男を挑発するようにふざけているのだ。
「殺してみろよ! こんなくだらない話で時間を使う前に、ゴキブリのように殺せばいいだろう!?」
目を見開き、前歯二本が抜けている歯を除かせながら、洋太は男へ怒鳴りはじめた。
男は、そんな洋太をただ黙って見下している。
「殺せない。そうだよな、お前に俺は殺せない」
無言のままの男に、洋太は更にガタガタと鉄格子を揺らし、大声で笑いはじめた。
「俺は一番最初の男のように、この天井から降ってくる液体で死ぬんだ。そうだろう?」
そう、箱の中の人間を殺す方法は、三つしかない。
液体か、電流か、炎。
この三つをローテーションで繰り返しているのだ。
好きに殺していいといいながらも、ちゃんとここには秩序があった。
そして、順番から行くと洋太は液体で死ぬ。
ということになる。
それが一番の脱出のチャンスだと言う事を、自分に言い聞かせていた……。
☆ ☆ ☆
最後の男が話しをしている最中、洋太は落ち着かない様子であぐらをかいたり、正座をしたり、足を伸ばしたりを繰り返していた。
そわそわする洋太の前で、男は今までの男たちと同じように淡々と話を進める。
洋太が昨日考えていた通り、最後の話は炎で焼かれる女のものだった。
少し違っていたことといえば、女は死ぬ前男によって全裸にされていた。
という部分だけ。
それも、男のただの性癖だろう。
全裸のまま炎に包まれる女に興奮し、目の前で自慰行為を繰り広げていたという。
それでも、女自身には全く手を出していないのだ。
その理由は簡単だった。
虫けら同然の女に手を出したなどと知れれば、自分の評価が下がってしまうから。
虫けらは性欲のはけ口にさえならないのだから、相手がどれほどの美貌を持っていようが、それは全く無意味なことのようだった。
やがて、話を終えた男は黙って立ち上がり、口元に笑みを湛えたまま、出て行った。
扉をバンッと乱暴に閉める音がした後、信じられないほどの静寂が訪れる。
その静けさに少し身震いをして、洋太は穴の開いている天井を見上げた。
きっと、もうすぐここから液体が流れ出す。
最初は少しずつ、少しずつ。
怖がらせるようにゆっくりと落ちてくるのだろう。
そして、そのお遊びに飽き足りたら、一気に自分を殺しにかかる。
洋太は大きく息を吐き出して、周りの様子を伺った。
自分以外に誰もいなくなったこの時こそが、チャンスなのだ。
しかし、脱出する術はまだ考えついていない。
手元にあるのは、炎を出す棒と、電流ボタンのみ。
それらを手に取り、なんとかこの箱から出られないかと考える。
鉄格子をガタガタと揺らし、横の壁を棒で叩く。
「クソッ!」
この檻は見た目より頑丈に作られているらしく、ビクともしない。
たたきつけた壁が少し変形したが、突き破れるほどのものではないようだ。
洋太は赤いボタンと黒い棒を交互に何度も見やり、「チクショウッ!!」と、叫び声を上げて檻の外へと投げ飛ばした。
その瞬間、微かな笑い声が聞こえてきた。
「……誰だ!?」
もう誰もいなくなったハズなのに、突然どこからともなく聞こえてきた声に、身を硬直させる。
「あんたは特別に、死に方を選ぶ事が出来るんだ」
そう言いながら姿を見せたのは、三番目のあの若い男だった。
マスクを外したその顔は面長で、細い眉毛につりあがった目元が印象的だった。
「お前は……」
洋太は男をマジマジと見つめながら、あの時この男に囁かれたことを思い出す。
『待ってろ。必ず、助けにくるから』
素顔をさらした男は「あんたに四つ目の道を与えてやろう」と言った。
「四つ目の道?」
「あぁ。一つ目は箱の中で硫酸によって溶かされ、死ぬ」
「液体というのは、硫酸のことだったのか」
洋太の言葉に返事をせずに、男は続けた。
「二つ目は、箱の中で電流自殺。三つ目は、箱の中で焼け死ぬ」
そう言いながら右手に棒、左手に赤いボタンを持って、箱の前をウロウロと歩き回る。
「そして、四つ目は……。箱の外に出る」
男は洋太の前にしゃがみこみ、ニッと白い歯を除かせて言った。
その表情が、一瞬昔の勇太とかぶる。
「お前、まさか……」
洋太の思考遮るように、男は「四つの内から選べ」と言った。
洋太は生唾を飲み込み「四つ目だ……」と、答えたのだった。
なにも……なにも、解かっていなかった。
こいつらが、《強制撤去法》が、どんなものなのか……。
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