第49話 その時
けれど、母親は死人のような目で私を見つめて、
「大丈夫よ、お母さんがどうにかするから」
と言った。
それからしばらくして、父親の家族から父親が死んだと知らせが来た。
あまりにも突然のことで驚いたが、話を聞くと車で事故をして死んだらしい。
再婚相手も、そのキラキラする家族も、私もみんな泣いた。
ただ一人、母親を除いて皆……。
私は葬式場で軽く微笑む母親に気づかないフリをして、父親の位牌に手を合わせた。
ごめんなさい。
お母さんは普通じゃないの。きっと……、きっと、お父さんを殺したのだって本気で憎かったワケじゃないわ。
だから、許してあげて。
心の中でそう言い。私は涙を拭った。
私は母親に対して何も言わなかった。
こわかったのではない、父親を殺した後にこれまでになく元気な母親を見てしまい、これでよかったのだと思った。
そして、再び同じ毎日が始まった。
父親の新しい家庭とは連絡を絶ち、私たちの……、いや、母親の暮らしやすいように暮らしていくことが一番だと思った。
相変わらず私は毎日占い師の元へ行き、当たっているかもわからないような占いをしてもらい、母親はその占い師に進められた薬を購入して私に飲ませた。
今はすでにあの赤い薬だけではなく、頭がよくなる薬や、美人になる薬。挙句の果てには超能力が使えるようになる薬などを飲まされるようになった。
ずべて、一体原料が何で出来ているかわからなくて、口に入れた瞬間生臭いにおいが鼻に付き、私はそれを水なしで飲み込んだ。喉にひっかかっていつまでも臭い匂いと苦い味がしていたが、母親が「
占い師さんが水を飲むと効果が薄くなるって言ったのよ」
と言うので、文句は言えなかった。
私さえ我慢していれば大丈夫。
そう思っていたのに、それさえも長く続く事はなかった。
「娘さん、死にますよ」
占い師は、真剣な眼差しで母親に対してそう言った。
「死ぬ?」
驚いて聞き返す母親の顔を、今でも覚えている。
「えぇ、病死します」
占い師は、私が病死するまでのいきさつを淡々を語り始めた。
「三日後の午前一時に高熱を出します、その熱は何を使っても、どんな病院へ行っても下がらず、何も食べれなくなって行くんですよ。
そして、一週間後に死んでいる娘さんのビジョンが見えます」
水晶玉に手をかざし、額に汗を浮かばせながら、占い師はそう言った。
「そんな……!どうすれば?」
母親は今にも泣き出しそうな表情で、占い師にしがみつく。
「安心して下さい。限りある命を、永遠の命にかえる薬があるんです」
占い師はそう言い、母親をなだめた。
「永遠の命?」
そんなものいらない。私はそう言いたかったが、グッと言葉を飲み込んだ。
「少し高いですけどね」
いやらしそうな占い師の顔。
「構いません! ください」
「いいですけど、その薬はずっと飲み続けなければならない。そうすれば娘さんは生きていられるが……高いですよ」
もう一度、占い師が確認するように、上目遣いで聞いてきた。
「構いません」
母親は同じ返事をもう一度した……。
薬は黄色をしていて、舌の上で転がすといつまでも甘い味が続いていた。
コロコロコロコロ、まるで飴玉のようで、私は久々に頬が落ちるような思いをした。
お菓子なんて食べたの、何年ぶりだろう。
実際口に入れているのは薬だが、私はお菓子だと思って楽しんだ。
そして、三日後。
あの占い師の通り、私は午前一時頃に高熱を出した。
あまりにも苦しくてよく覚えていないが、母親がずっと叫んでいたことだけは記憶にある。
そして、数日が経つ頃、私は元気を取り戻していた。
熱も下がり、外へ出ても平気なのだ。
私は驚きながらも、あの占い師の事を少し見直していた。
もしかしたら、占いも薬も、すべて本当なのかもしれないと。
それからすぐの事、私は体に違和感を覚えて母親と共に占い師の元へやってきていた。
「あの薬、きくでしょう」
自信満々の笑みをたたえて、占い師はそう言った。
「ええ、けど体がおかしいって言っているの。他の病気かもしれないし」
不安そうな表情の母親。
占い師は急に無言になり、水晶玉に両手をかざして目を閉じた。
「見えます……」
と、占い師が言い、母親が身を乗り出す。
「娘さん、ご飯を食べていないでしょう」
その言葉に、私も両目を見開いた。
たしかに、病気をした日以来、元気は出ても食欲だけはなかった。
口にするものと言えば、妙な薬ばかり。
「そうなんです!」
母親の声が一段高くなる。
「では、今までの薬をすべてやめさせて、永遠の命になる薬だけを飲ませてください。
そうすれば、娘さんは食事をしなくてもいい、無敵の人間になりますよ」
「食べなくてもいいんですか?」
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