第12話 ハンド

☆ ☆ ☆ ☆


思い出した。



すべてを、ここで起きた事を、思い出した。



私は自分の両手を見つめ、その場に膝をつく。



「真美……、祐樹、恭子」



自分が殺した人たちの名前を呼ぶ。



だけど、ここには誰もいない。



微かに漂う異臭は自分に染み付いた三人の血、腐敗してその姿をなくした三人そのもの。



「ごめんなさい……」



大量の涙が溢れ出す。



「こんなつもりじゃなかったの」



あんなに嫌だった言い訳が、自分の口からも簡単にこぼれだした。



私は毎日毎日ここで夢を見ていたのだ。



電車の中のチカンは、母親を必死で現実へ引き戻そうとする、我が子の小さな小さな手……。



「ごめんなさい! 真美、真美」



どうして早くそれに気付かなかったんだろう。



殺してしまった。



私が、この手でみんな殺してしまった……!



体の振るえが止まらないまま、さび付いた果物ナイフを手に取る。



ダメだ、こんなものじゃ死ねない。




私は、必死であたりを見回し、道具がないかと探す。



目に入ってきたのは、真美を殺したときのパイプ。



すべでの思い出が、ここへ終結している。



それを見た瞬間、死ねる嬉しさと、その死に様を想像したときの残酷さとで、更に涙が止まらなくなった。



三人を殺した私に、神は一番苦しい死を与えた。



「う……あぁぁぁ!!!」



天に向けて叫び声を上げながら、私はそのパイプを自分のオシリに突き刺した。



強烈な痛みが、感情をも麻痺させる。



「ふふ……ハハハッ!アハハハハ」



急におかしくなった私は、オシリにパイプを突っ込んだ状態で狂ったように笑い始めた。



笑いながら、パイプを床に固定し、それに座って体重を乗せる。



突き刺さったパイプは、更に奥へ奥へとねじ込まれていくのだ。



私の体の中では腸が裂け、胃が圧迫され、それがまた同じように裂け、気道を塞ぎ、まるで魚のように串刺しになって死ぬ。



「アハハッ! アははハハハはハハッ!! アハ……ハッ……」




意識がなくなるその瞬間、



「まま」



誰もいない電車の中、最後に確かに、その声が響いた……。



END

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