第13話 花咲くとき
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
彼が死んだ、彼が死んだ
ねぇ、そうでしょ?
彼は、死んだのよね?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真夜中の騒動、パトカーの赤いランプ。
その周りで何事かと群れをなす野次馬たち。
「彼が死んだのよ! 家の中にいるわ! 早く、早く誰か!!」
長い髪を振り乱し、叫ぶ女。
女は外にいるのも関わらず素足で、野次馬たちの視線も気にせず警察官へ掴みかかる。
「落ち着いて、落ち着いてください!」
若い警察官が二人がかりで女を取り押さえる。
地面にうつ伏せに押さえつけられた女は、尚も叫んだ。
「彼が……彼が死んだの!!」
真っ赤に充血した両目を大きく見開き、そこから大粒の涙を流しながら、女は叫ぶ。
「死んだのよ!!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
岩崎栞が一人暮らしを始めたのは、ほんの半年前のことだった。
高校卒業後すぐに家を出て、小さな印刷会社で働き始めたのがキッカケ。
特に、目指しているものや大きな夢があるわけではない栞は、毎日毎日、なんとなくバスに揺られ、なんとなく会社へ行き、なんとなく任された仕事をこしていた。
それは、自分の城でもあるアパートへ帰ってからも同じだった。
本格的な夏が近い、六月中旬。
仕事帰りの栞はキンキンに冷えたビールを片手に、ベッドに座った。
日ごろから、くつろげるソファーがほしいと考えているのだが、ベッドを置いているため部屋が狭い。
ソファーを買うとしたら、ベッドを手放してしまうことになる。
そのため、ベッドの上で飲んでそのまま寝てしまうことが多かった。
テーブルの上のリモコンでテレビを付けて、缶ビールの蓋を開ける。
プシュッと炭酸の抜ける音がして、その音と同時に肩の力が一気に抜ける。
「今日も終ったわね」
そう言ってビールを飲み干す姿はまさにオッサン。
まだ未成年だというのに、その飲み方は哀愁タップリだった。
「今日も終わったわね」
同じ声が、もう一度部屋に響く。
栞はテレビの真横にいる、その声の持ち主へと視線を移し、そして微かに微笑んだ。
声の持ち主も、栞を見て微かに微笑み返したように見えた。
まるで、物まねをしているようにさっきから同じセリフを繰り返しているのだ。
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