第11話 ハンド

「ぱぱ、きたない」



「そうねぇ、汚いね」



自分に向けられているナイフに意味もわからない娘は、ただただその行為にシワをよせる。




「よかったわ。これで心置きなく……」




私は言いながら、果物ナイフを手に取る。




「あなたたちを殺せるから」



☆ ☆ ☆ ☆



十七時十五分。



目の前には裸体の女と男。



さっきまで、人間だったソレは今は名も無いマネキン人形。



小さなナイフを突き刺すたびに、新しい赤い噴水ができあがり、あたりを染めていく。



「キレイよ。とてもキレイ」



もう心臓も止まっているけれど、何度も何度も刺し続ける。




恭子だったマネキンが、赤い色が掻き消していく。




そうよ、汚いものは消せばいい。汚いものは見えなくすればいい。




この二つのマネキンは汚いの。



マネキンになった今もまだ汚いの。



「ままぁ」



小さな手が、私のオシリに触れる。



泣きながら、必死に母親へしがみつこうと手を伸ばしているのだ。



けれど、私は気づかない。



「ままぁ」



もう一度、呼ぶ。



母親の正常でないこの状態に、小さな胸ははちきれんばかりの不安と恐怖が交差しているだろう。



「ままぁ」



「うるさい!」



私は今汚いものを消しているのよ。



誰にも邪魔させない。



振り返り、そこにいる人物に唖然とする。



恭子だ。



小さな小さな恭子がそこに立って泣いている。



私はもう一度マネキンたちをみる。



偽物だ。



この大きな成熟した体を持つマネキンは偽物。



本物は……こっち。



私はナイフを持ったまま真美に向き直る。




小さな恭子が、私の目にハッキリとうつる。



「まま?」



不安そうな恭子の表情。



私はナイフを捨て、近くにあった鉄のパイプを手に持った。



こんなに小さな恭子なら、これだけで十分だ。



「ままっ!」



鉄パイプを振り下ろす瞬間、その顔が恐怖にゆがむ娘の顔になり、グシャッという音がした後、その顔もどこかへ消えた……。



十七時四十五分。

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