恐怖短編集

西羽咲 花月

第1話 ハンド

朝の七時十分。



私が毎日乗っている電車の発車時刻だ。



電車内は当然、通勤、通学ラッシュで、三つ目の駅でおりる私はハンバーガーに挟まったキャベツの心境がよくわかる。



そして、七時十五分。



一つ目の駅に着く二分前。



この時間から、決まって私はチカンに合う。



きた。



心の中で呟き、体をギュッと硬直させる。



さっきまで人間のものだった私の体は、一瞬にして鉄に変わる。



正式には鉄に変わってしまったかのように、動けなくなる。



こんなときでも、心だけはちゃんと人間のままでいる。



どうせなら、心が鉄になってしまえばいい。悲しみや恐怖なんか、感じなくなってしまえばいい。



ギュッと学生カバンを握り締めた右手には、じっとりと汗がにじみ出て、足が小さく震える。



私のオシリを撫でている手は、必ずいつも同じ動作を繰り返す。



右に行って、左に行って、また右に行って、左に……。



まるでメトロノームのように単調に、時を刻む時計のように正確に、私のオシリを行ったり来たり。



そのリズムに乗って音楽が流れてきそうだと、一瞬思う。



悠長にそんなことを思っているくらいなら、捕まえるくらいできるだろ。



そう思う?



私も何度かその手を捕まえて、ドラマのように警察へ突き出してやろうとした。



掴もうと手を伸ばせば、その手はもう私のオシリにはないのだ。



振りかえってみても、それが誰の手だか見当もつかない。



それ所か電車内の人間すべてが手の持ち主に見えてきて、女の人でさえ信用できなくなる。



軽いうつ状態に苛まれながらも、高校までの電車通学は続いているのだ。

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