第28話 6+1

☆  ☆  ☆


「おい、起きろ」



その声と同時に、わき腹に鈍い痛みが走った。



残り五人になった男の一人からパンと牛乳を受け取り、それに怪しいものが混入していないか嗅覚で確認した後、むさぼるように食べた。



そこまでは覚えているが……どうやら、気付けばまた眠っていたらしい。



目を開けると、左から二番目に立っていた男が、洋太のわき腹を黒い棒で突いているではないか。



「なんだお前」



寝起きながら、巻き舌を使って相手を威嚇(いかく)する。



男は、口元からスキッパを除かせて下品に笑い、それから口を開いた。



「今日は俺の番だぜ、おっさん」



「あぁ?」



「楽しい楽しい、お話の時間だ」



そして、男は洋太の檻の前であぐらをかいて座り、ある、話をはじめた……。


☆  ☆  ☆



私は、自分がどうしてここにいるのか解からなかった。



気付いたときには、辺りは薄暗く、手足を伸ばしてみても立つ事の出来ないほど狭い場所にいた。



「誰かいないの?」



たまらず、そう呼びかける。



お気に入りのチェックのミニスカートは泥まみれで、新品のキャミソールも汚れが目立つ。



夕べのことは、よく覚えていた。



一人で公園にいたときに、突然若い男に襲われたのだ。



後ろから突然口を塞がれた私は、咄嗟に右手で男のソレ握りしめ、思いっきりヒネリ上げてやった。



男がひるんだその隙を見て、逃げ出したのだ。



逃げながらも足がもつれてもつれて、公園を出るまでに何度転んだかわからない。



服がこんなに汚れているのは、その時の汚れ。



しかし、逃げている途中からの記憶がない。



「誰か!?」



もう一度、誰もいないと知りながら叫び声を上げた。



私を襲ってきた犯人が、私をここへ閉じ込めた。



そうとしか考えられなかったが、どこをどう確認しても私の体自体は汚されてはいなかった。



お金も持っていない、親に勘当されて帰る家もない。



毎日ひたすらキャバクラの仕事をこなすだけの毎日。



そんな私を誘拐して、目的は体ではない……?



「なんなのよ……」



狭い狭い、箱の中。



その箱の向こうには、薄暗い闇。



それしか存在しない世界。



私の頬に、暑さで汗が流れた。



ここは全く冷房が効いていないらしく、時折息苦しささえ感じる。



その時だった、薄暗い闇の中から、一人の人間が姿を見せた。



身長からいうと、男で間違いないだろう。



「あんたが私を誘拐したの?」



単刀直入な問いかけに、覆面マスクをかぶった男は何も返事をしない。



「聞いてんの!?」



イライラしながら男へ怒鳴りつけ、私は目の前の柵を両手でつかんでガタガタと揺らした。



柵の向こうの男は軽く口元だけで笑い、ポケットから赤いボタンを取り出したかと思うと、それを押した。



「キャァッ!」



叫び声を上げ、飛び跳ねるようにして柵から手を離した。



両手がビリビリと痺れ、痙攣する。



電流を流された私は、信じられない面持ちで目の前の男を見つめた。



「話を聞け」



私のおびえるような表情に満足した男が、ゆっくりと口を開いた……。

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