第19話 ルルド村

 私達は、森の環境や、それによる生態の変化なんかを話題にしたり、これから向かう村についての説明を聞きながら歩く。


 道はほぼ獣道に近く、その細い道を一列になって歩いていく。


 ソックスが道案内してくれるので、行ったことがあるのかと尋ねると、むしろ顔馴染みなほどだという。


 そんなソックス曰く、目指す村はルルド村と言って、この辺りでは唯一の村らしい。


 土地自体は豊かな平野に囲まれていて、恵まれているのだそうだ。


 けれど、王都からの遠さがネックになり、好んで住むものがそう多くはないのだそうだ。


「住人が増えれば、開拓も進んで大きな町に発展する可能性のある村なんだけどにゃー」


 勿体無いのにゃ、とぼやいていた。


 そんなことを話しながら進むと、お日様が天頂に登りきる前には、村に着くことができた。


 村、と言っても、粗末なものではなく、きちんと高さのある木の壁で村の周囲を囲っている。


 入り口にも、きちんと開閉可能に見える扉が付いている。


 その扉は今は開いているけれど、その両脇には、警備らしい、体格の良い狼獣人が立っていた。


「そういえば、私達って身分証とかって持ってないよね。入れるのかしら?」


 そのいかつい門番をみると、ちょっと気後れしてしまった。


「ボクは、いつも、シュルッと入ってるけどにゃ」


 ……君一人ならそれで良くても、今日は大人数なのよ。


「ひとまず、目的を話して、入れてもらえるか、交渉してみましょうか」


 怖がって、何も言わずに回れ右しても、何も得られない。


 だったら、ちゃんと、やれることはやってみましょう!


「初めまして! 最近森に住み始めた、チセと申します。周りの子達は、私の従魔達です」


 私が、入り口の門番達の真ん中、彼らに向かい合うように立って、ぺこりとお辞儀をする。


 もちろん、頭の上に乗っているスラちゃんが落っこちないように、頭は両手でスラちゃんを抑えてだ。


 そして、私に倣うようにして、他のみんなもお行儀良くお辞儀をしてくれた。


「おやおや。初めまして。森に一人でなんて心配……とは言っても、それだけ仲間がいれば安心かな?」


 割と門番の人は気さくなようで、むしろ多分私が年若い少女で、森に一人暮らしという点を真っ先に心配してくれたようだ。


「ところで、私達に話しかけているということは、この村に用事かな?」


 もう一人の門番さんも、やたらと警戒する素振りはなく、用向きを尋ねてきてくれた。


「はい。私は初級ポーションですが、お薬を作れるので、それを売って、そのお金でお買い物をしたいと思ってやってきたのです」


 そう説明してから、くまさんに、ショルダーバッグの中身を見せるように、促した。


 すると、くまさんが一歩前に出て私の隣に並び、ショルダーバッグの口をかぱっと開けた。その中には、十九個の薬瓶がぎっしり詰まっている。


「おお! 薬!」

「これはありがたい! 村長に報告してくる!」


 門番の一人が、あっという間に村の中に駆け込んで行ってしまった。


 その様子に呆気に取られている私達に、残った門番が、事情を説明してくれた。


「いやね、この村は王都からとても離れた、辺境と言ってもいい場所でね。なかなか行商人も来ないんだ。しかも、こんな小さな村に住みたい薬師もいなくてね」


 そういう訳で、薬を売ってもらえるかもしれないのは、大変なことだという訳なのだそうだ。


 なんでも、村に薬師自体もいないらしく、薬はたまにやってくる行商人頼りだし、輸送費込みになるのでとても高価だという。


「待たせてすまないね、でも、もうちょっと待っててね!」


 用向きが、薬の買い取り希望だということが分かってからの待遇は非常に良く、残った門番さんも、待ち時間を飽きさせないようにと、村のことを色々教えてくれた。


 村という割には立派な壁も、最近森の恵みが少なくなってきた関係で、獣や魔物達が飢えて襲撃してくる事態が増えているから、建て直ししたのだとか。


 竜王陛下の奥方の聖女様が存命の頃には、夜に王都からエリアヒールが施されていたので、簡単な病であれば病知らずだったとか。


 今は、ヒールもないし、薬も不足がちで、病に悩むものも多いのだという。


 そういうわけで、私たちは、村長さんがやってくるまで、色々村の情報を聞かせてもらいながら待つのだった。


「ゴホン! ゴホン!」

「村長、大丈夫ですか!?」


 そうして、ようやく待ち人が来たようなのだけれど、どうも、村長さん自身が体の具合が悪そうに見えた。


 本当は勝手に中に入ってはいけないのだろう。


 けれど、心配になったので、私は思わず村長さんに駆け寄って、村長さんの体を支える門番さんの反対側から、その体を支える。


「ああ、すまないね。君が森の薬師殿かい?」


 ……そんな大層な身分ではないのだけれど……。


「はい。お薬を調合したので、買っていただけたらと思って、お訪ねしました」


 私は、そう答えたのだった。

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