第20話 村長さんの病気

 門番の一人と一緒に支えて歩く村長さんは、時折咳き込むようにして立ち止まってしまう。


 あまりにも辛そうなので、近くにあった腰掛けるのに手頃な大きさの切り株に、彼を座らせた。


 村長さんは獣化の少なめな狼獣人らしく、私と同じように人の体に耳と尻尾がついている。


「ああ、すまないね。どうにも、この咳の病が治らなくてねえ……」


 歳を重ねて顔に皺が増えてきたその顔を、クシャッとさせて、苦笑いをする。


「村長さん。私は森に住むチセと言います」


「うん、さっきこの門番に聞いたよ。薬を作ってくれたんだってね。とてもありがたいよ。ぜひ村で買い取らせていただきたい。歓迎するよ」


 そして、もう一度顔をクシャリとさせて笑ってくれた。


 そんな村長さんが、また咳き込んだ。


 私は、『買取ってもらって現金を得る』という目的のために村へきたのだけれど、苦しそうな村長さんを見ていること自体が、辛くなった。


 かといって、すぐに「買って飲んでください」と言うのも、なんだか苦しんでいる彼につけ込むように感じて、卑しさを感じてためらいを感じた。


 私は、切り株に腰を下ろす村長さんと目の高さを合わせるために、しゃがみ込んだ。


「村長さん。まずは、村長さんに一瓶飲んでいただきたいです。まずは無料です。買取をするだけの価値があるかを、村長さん自身が確認して欲しいんです」


 そう申し出ると、村長さんを筆頭に、ついてきてくれたアトリエの仲間たちも、門番二人も、目を見開く。


「チセ、君はお金が必要にゃんだろう?」


「うん、そうね。でも、この村からしたら新しい取引相手なんだから、まずは試用品を試すことも必要じゃないかしら?」


 私に尋ねてきたソックスに、私は返答して、彼の気遣いに感謝してにこりと笑いかけた。


「村長! ボクが保証するにゃん。この子は人を騙すような子じゃないにゃ。だけど、これは取引するかを決める場だから、まず咳の病を抱えている村長さんが試飲して確かめるにゃん!」


 ソックスはそう言うと、くまさんに声をかけてショルダーバッグの中を探り、私が作ってきた初級ポーションを一瓶取り出した。


「チセ、いいんだにゃ?」


「ええ、いいわ」


 すると、ソックスは瓶の蓋を開けた。


 そして、トコトコと村長さんの間近に来る。


「さあ、飲むにゃ!」


「だけど、私の病は、行商人が運んできた初級ポーションを飲んでも治らな……」


 遠慮なのだろう、断ろうとする村長さんの口に、ソックスは瓶の口を触れさせてしまう。


 ……ふふ。ソックスったら強引ね。でも、遠慮深い相手には良い方法かもね。


 微笑んで二人のやりとりを見守る私。


 村長さんは、そんな私に視線を向けて、「すまないね、もう商品にならないだろうし……」と言って謝罪する。


「大丈夫よ。さあ、飲んでみて」


「大丈夫、チセのポーションはそんじょそこらのものとは出来が違うぽよ!」


 私の頭上のスラちゃんも、村長さんを後押しする。


 何度も促されて、村長さんは半信半疑という様子で、ポーションを飲んだ。


「……おや?」


 ポーションを飲み終えた村長さんが、胸を自分の手でさすりながら、首を捻った。


「……胸から迫り出すような、そんな圧迫感がない……?」


「本当ですか! 咳は、咳はどうですか!?」


 村長に付き添っている門番は、まず目を丸くし、そして、嬉しそうに笑顔になる。


 そんな結果が待ち遠しそうな門番のために、私は村長さんに尋ねてみた。


「私、簡易版の鑑定スキルを持っているんですが、観てもいいですか? 治ったかどうか、わかるかも……」


「ぜひ、ぜひ! ね、村長、観てもらいましょう!」


 結果を早く知りたがる門番は、村長を積極的に提案に乗るように促してくれた。


「……まあ、観られて困る身でもないしね。じゃあ、チセさん。お願いできるかな」


「はい!」


 村長さんの許可もあって、安心して、彼の鑑定をする。


【ガルム】

 種族:狼獣人

 状態:健康そのものぽよ!

 レベル:年の功だけあるね

 魔力:すっくな!

 知力:さすが村長! 知識が豊富!

 力:さすが狼だけあるね!

 体力:強そう!

 性別:男

 年齢:五十歳くらい?

 固有スキル:切り裂く爪、突き破る歯牙


 ……ん。都合よく『状態』って項目が出てきたわね。

 しかも、って……。

 スラちゃん鑑定って命名しようかしら、このスキル。


「村長さん、確認できましたよ」


 私は、しゃがんだままの姿勢で、にっこりと村長さんに笑いかける。


「健康そのもの、だそうです」


「「おお……!」」


 村長さんと門番さんが、気色を浮かべ、驚きの声をあげる。


「私の長患いは、一般的な初級ポーションでは、治らなかったのだが。……これは素晴らしい薬師様が来て下さった! 歓迎しますよ、チセ殿!」


 村長さんは、私からのお墨付きをもらうと、私に謝辞を述べて、両手で私の両手を包み込み、固く友好の意を示したのだった。


——————————————————————————-

書籍化作業で、連載が止まっていて、お待たせしました。

最新のチセのステータスです。

【チセ】

 種族:猫獣人

 レベル:なんかすっごい!

 魔力:なんかやっばい!

 知力:すっげー!

 力:猫並み? 必殺技は猫パンチ!

 体力:ほどほど。スライムには倒されそうにない。

 性別:女

 年齢:十二歳?

 固有スキル:内包図書館、テイム、精霊召喚

 継承スキル:鑑定、火魔法、水(氷)魔法、

       警戒、探索、俊敏、鋭い爪、舞踊(NEW)

 眷属:火の精霊サラちゃん、水の精霊アクア、氷の精霊シラユキ、

    スライム(スラちゃん)、小鳥(ピーちゃん、チュンちゃん、ピッピ)、くま、ソックス

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る