第21話 村長の家

 村長さんの病気が治ったことは、若く元気な門番が村中を走り回って知らせ(なんで?)、村中が喜びの声に湧いた。


「じゃあ、この村では薬は私が管理しているので、まずは私の家に行きましょう」


 村長さん曰く、この村は薬屋で商いができるほど薬は手に入らない。しかも医者に管理してもらおうと思っても無医村だということもあって、薬の管理は村長さんがやっているのだそうだ。


 なので、村長さんに提案されて、村長さんと共に、私とその仲間達で村長さんの家に向かおうとするのだけれど……。


「チセ、なんか、あちこちの家から住民が出てくるにゃ?」


 ソックスが、村をキョロキョロ見回してから、私に不思議そうに声をかけてきた。


 確かにソックスの言うとおり、あちこちの家の玄関が開いて、住人が私たちの向かう方向へ、我先にと走っていくのだ。


 ……どう見ても、私たちが向かう方向へ走ってるよね?


 私のその想像は的を得ていたらしく、村長さんの家に着くと、既に薬を求める村民十数名ほどが行列を作っていた。


「うちの母ちゃんが病気で!」

「いやいや、うちの子の方が先だ!」


 並んではいるのは、病人を抱えた家の家人達のようだ。


 ぱっと見でも、結構な人数がいるし、薬の購入順を争っているようなので、私は心配になって並んでいる人たちの人数を数える。


 ひーふーみーよー……、村長さんに使って十八瓶しかないけれど、並んでいる村民はその本数で収まる人数だったので、ひとまず、私はほっと胸を撫で下ろした。


「みなさん、落ち着いてください! 今いらっしゃる皆さんに、一人人瓶でしたらお持ちしていますから、言い争いはせずに、落ち着いて待っていてください」


 そう私が並ぶ村民に声をかけると、並ぶ人たちの表情と場の雰囲気も和らいだ。


「全く、急く気持ちはわかるが、そんなにがっつくものじゃない。ちゃんと私が買い取って、皆の手に渡るようにするから、そのまま並んで待っていなさい」


 村長さんが私の言葉に続いて、村人たちを窘める。


 そして、私たちは、村長さんに促されて、彼の家に招かれたのだった。





 私たちは、村長さんの家の簡易ながらテーブルとソファの応接セットもある部屋に通された。


「品は、私が試させていただいたものと同じかな?」


 村長さんは、ソファに腰掛けるように私たちに促しながら、自らも腰を下ろす。そして、私が買い取りを願っている薬の品質について話題を振った。


「はい、同じ品質の初級ポーションです。一瓶お試しいただいたので、残り十八本あります」


 そこで、くまさんの腕をツンツンを突いて、持ってきた薬瓶を出してくれるようにお願いした。そこでやっと、はっと気が付いたように、瓶をテーブルの上に並べるくまさん。


「それは、村人たちも喜ぶだろう」


 村長さんが、たくさんの薬を見て、嬉しそうに目を細める。


 そんな中、部屋の扉がノックされ、「お茶を持ちしました」と女性の声がした。


 村長さんが許可をすると、優しそうな壮年の狼獣人の女性が、車輪のついた小さなテーブルに、複数のカップとポットを載せて入ってきた。


「あら、あなた。お客様と聞いてはいましたが、いつもの咳は……?」


 その女性は、カップを村長さんと私たち(スラちゃんにも!)全員に配り、ポットからお茶を淹れて回りながら、村長に尋ねた。「あなた」と呼んでいるということは、おそらく、奥さん?


「ああ。お前には今日の素晴らしい出来事と、今日招いたお客人のことを紹介していなかったね」


 奥さんらしい女性は、にっこり微笑みながら、村長さんと向かい合って座っている私たちに、目線を向ける。そして、お茶を淹れ終わったポットをテーブルの上に戻した。


「チセ様、彼女は私の妻でテレサと申します」


 夫である村長さんに紹介されると、テレサさんが、にこやかな笑みをたたえたまま、頭を下げた。


 ……ん? 前の呼び方って、『様』ついてたっけ?

 はて、と私は首を捻る。


「そしてテレサ。チセ様は、最近村の近くの森に住み始めた薬師様なんだよ。君が心配していた私の長患いは、チセ様がお作りになった初級ポーションであっという間に治ってしまったんだ!」


「まあ!」


 病が治ったと聞いて、テレサさんはただ一言、感激した様子で声をあげる。


 そして、喜びとともに、疑問が湧いたのか、首を傾げた。


「……それにしても、本当に初級ポーションなのですか? 今までも、それを飲んでも治らなかったはずですが……」


「それが、チセ様の薬は品質が違うんだよ! きっと、困っていたこの村を神々が憐れんで、お遣わしくださったに違いないよ!」


「まあまあ! 我らの村をお救いくださる、森の薬師様! 素晴らしいわ!」


 なぜか、私当人を置き去りにして、村長夫婦は大興奮するのだった。


 まあ、神様がこの地に遣わした(人口調整のために異世界に移動させた)というのは、確かに事実なんだけどね……。

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そして、久々のチセのステータスです。なんか増えてます(笑)

【チセ】

 種族:猫獣人

 レベル:なんかすっごい!

 魔力:なんかやっばい!

 知力:すっげー!

 力:猫並み? 必殺技は猫パンチ!

 体力:ほどほど。スライムには倒されそうにない。

 性別:女

 年齢:十二歳?

 固有スキル:内包図書館、テイム、精霊召喚

 継承スキル:鑑定、火魔法、水(氷)魔法、

       警戒、探索、俊敏、鋭い爪、舞踊

 眷属:火の精霊サラちゃん、水の精霊アクア、氷の精霊シラユキ、

    スライム(スラちゃん)、小鳥(ピーちゃん、チュンちゃん、ピッピ)、くま、ソックス

 称号:森の薬師(NEW!)

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