第44話 ルルド村の復興計画

 アルがガルドリードを屠り、村に平和が戻ってきた。


 金色の竜だったアルが、その翼をはためかせながら降りてくる。

 大きな竜の体が、人のそれに変わっていく。


 ーーって、あれ?


 アルが、アルの姿じゃなかったのだ。


 髪は背中に届くほど長く、金色に変わっていた。

 瞳は元と同じく蒼。

 アルの面影はある。

 けれど十五歳ほどかと思っていた見た目は、二十歳前後の青年のものに変わっていた。


 その青年が、背中に生えた金色の翼をはためかせて私たちの前に舞い降りた。

 みんな、アルらしき青年(?)を凝視している。


「えっと、……アル?」

「ああ、そうだよ。俺はアル。……アルフリートだ」

 私の前に歩いてきたアルだと名乗る青年が、目を細めて微笑んだ。


 ーーちょ! 美形すぎる……!


 もともと顔だちのよかった彼が青年の姿に成長し(?)、微笑むと、それは私には眩しすぎるほどだった。

 合計40歳になろうかともいう私(しかも彼氏なし!)には厳しかった。眩しすぎた。


「君のおかげで、俺は自分の守るべきものに気づくことができた。…チセの、この村のおかげだ」

「どうして……?」

 どきどきうるさい胸を押さえながらも、私はなぜその姿なのかと問いかけたくて、アルの頭から足元までを眺めみる。


 その問いにアルがにこりと笑った。

「この姿が、多分俺の本来の姿だよ。……俺は、聖女の息子として、聖竜にならないといけなかったんだ」

 すると、アルの「聖竜」という言葉に、ゴブリンたちを含む村人たちがわっと湧いた。


「聖女様の御子息……!」

「では、かつて失われた癒しの力は……!」

「森も戻るかゴブ……!」

 口々に問われる言葉に、アルが彼らの方を見て頷いた。


「ああ。これからは、俺が癒していく。もう、飢える心配はしなくてよくなるはずだ。……範囲回復エリアヒール!」

 アルの体を中心にして優しい光が広がった。それはどこまでもどこまでも広がっていく。


 その光は傷を負った獣人たちを癒す。

 畑も、森も、緑が鮮やかさを取り戻していく。

 それは、かつてこの国の聖女が国中を満たしたものと同じだった。


 再び歓声で村が沸いた。

「聖竜様が降臨なされた!」

「聖竜様がお生まれになられた!」

「ゴブーー!」

 村人たちが、口々に喜びの声を上げたのだった。


「それにしても、焼けてしまった家を修理しないといけませんなあ」

 人々の影から姿を見せる村長さんが、ため息をつく。


「ドラゴンの鱗は貴重品で高値で売れる。それを集めて村の復興資金にすればいいんじゃないか?」

 アルが村長に提案した。


 ドラゴンは基本長命種。なので、滅多なことで死亡者が現れることはない。

 その反面、死したドラゴンの遺体とは、残すところがないほど全部位が貴重。鱗一枚、血の一滴までがオークションなどの取引対象となる。

 なので、アルが聖竜に変化するにあたって村中に散った鱗だけでも、価値があるのだそうだ。


 そう考えると、ガルドリードは焼いてしまわずに倒したほうが良かったのかもしれないけれど、そこは仕方がない。

 それに、あそこまで歪んだ思想の持ち主を素材にして何かを作っても、なんだか嫌な効果がつきそうで怖い。


 っと、話が逸れたわね。


 鱗を換金したらどうかと提案するアルに対して、村長はどうしたものかと首を捻る。

「ですが、我々にはその換金の手段がありません。行商人を待ったとしても、彼らはこんな辺鄙な土地に住む我々の足元を見て、買い叩くでしょう。それではアルフリート殿下にあまりにも申し訳なく……」


「じゃあ、俺が王都で換金してくればいいんじゃないか? そして、その資金をもとにこの村を復興する」

「ほら」と言って背から翼を生やして伸ばし、「これなら早い」そう言ってアルが笑った。


「そんな、恐れ多い……」

 村長が言い出すのを遮るように、アルが村人たちに大きな声で号令をかけた。

「おーい、みんな! 俺が落とした赤い鱗を集めてくれ! それは換金すればまとまった金になる。それをもとにして焼けた家を修理して、あとは……食料も王都からまとめて買ってこよう!」


 それを聞いた村人たちが、わぁっと歓声を上げる。

「一片たりとも残さず集めろ! 自分のポケットに入れようなんて考えるなよ!」

「しないゴブー! オイラは、鱗より腹一杯食べたいゴブ!」


 結局、なんだかんだとここの村人たちは正直者ばかりのようで、時間はかかったもののすんなりとアルの赤い鱗が集まったのだった。


 ちなみにアルがまだ赤竜だった時、シラユキを庇ってガルドリードのブレスを受けてしまっていた。

 だから集めた鱗は、綺麗なもの、焼けているものの二種類に分類された。


「焼けた鱗は使い物にならないか……値段も低いんだろうな」

 うーんとアルが頬に手を当てながら考えていた。


「ねえ、ヒールとかで治らないの?」

 私は、アルの隣に並んで、焦げた鱗の入れられた容器の前に立った。

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