第33話 アトリエへの帰宅
私たちは、村の人たちに、一泊の宿を借りて翌日の朝森へ帰ることにした。
一旦の別れを告げ、ゴブリンたちの見守りを念を押してお願いして、村を後にした。
今は、アルと一緒にみんなで森のアトリエへ向かっている途中。
まだまだお日様は天頂に登りきってはいない。
先頭は行きと同じくくまさん。
彼女は、村人たちから貰ったたくさんのお礼を詰め込んで、パンパンになったショルダーバッグを斜めがけにして運んでくれる。
スラちゃんは、定位置(?)の私の頭上でぷるぷるしてる。
そしてソックスはくまさんの後ろで草笛を吹きながら歩く。
最後に、私とアルが、道の幅に合わせて真隣になったり斜めにずれたりしながら、進んでいた。
「なあ、アトリエって遠いのか?」
大したことも確認せずについてきたアルが、今更ながらに、目的地までの道のりを尋ねてくる。
「うーん、そこまで遠くはないわ。お昼くらいには着くと思うわ」
「じゃあ、アトリエでチセごはんかにゃ⁉︎」
前をゆくソックスが、くるんとこちらに振り向いて、期待に満ちた目で見つめられる。
「そうね。きっとアトリエに着く頃にはみんなお腹がすくころよね。何か簡単に作れるものでお昼にしましょう!」
私はソックスの期待に沿うように返答をする。
「チセごはんは、美味しいくま〜♪」
先頭をゆくくまさんは、警戒のためか振り向かないけれど、嬉しそうに、「ごはん〜♪」と唄う。
「そんなにチセは料理上手なのか?」
周囲の様子を見て、興味を持ったらしいアルがみんなに尋ねる。
「チセのごはんは美味しいぽよ〜。フワシュワパンケーキに、野菜を詰め込んだ丸鶏だったり! ただのスープでも、味わい深くて美味しいんだぽよぉ〜」
頭上から、ジュルッとよだれが垂れそうな音がしたのにヒヤヒヤしたけれど、なんとか自分でとどまったようだ。幸い、よだれ被害に遭うことはなかった。
……ちょっと、スラちゃんの定位置、変えてもらおうかしら?
そうは思うものの、なんだか、ぽよぽよとしたゼリー質の彼が頭に乗っているのが、すでに私にとっても当たり前になってしまっている。
やめてもらうにしても寂しくなりそうだったので、口にするのはやめることにした。
「なんだか、美味しそうだな。な、チセ。昼食、俺も食べてみたいんだけれど、いい、かな……?」
一緒に同居すると決めたのだから、当たり前のようなものなのに、わざわざ遠慮がちにアルが私に尋ねてくる。
「ん? だって、もうアルもアトリエの住人でしょう? 当然人数に入っているわよ?」
当然でしょう、というようにアルにサラッと返す。
すると、アルが嬉しそうに笑う。そして、少しこそばゆいかのように、後頭部を掻いた。
「……なんか、嬉しいな」
柔和に微笑むアルの表情は、なんだかとても幸せそう。
……とってもささやかなことだと思うのに。
アルって意外に──いや、やめよう。
まだ出会って日の浅い彼の価値観なりを、勝手に決めつけるような真似をするのは失礼よね。
「ふふ。じゃあ、はじめての人もいるから、腕によりをかけて作っちゃおうかな!」
頭の中の思考を振り払うように、えいっと空に向かって片腕を伸ばして宣言すると、他のみんながわっと沸いた。
「じゃあ、途中で何か食べられる鳥を見つけたら狩ろうか?」
「うん、助かるわ!」
そう、アルが提案してくれたので、お願いすることにした。
結局、途中でトコトコ歩いている鶏に似た鳥がいて、アルが
そうこうしているうちに、森のアトリエに到着した。
「到着〜!」
私はポケットからアトリエの鍵を取り出して、扉を開ける。
はじめてアトリエを見るアルは、アトリエの周辺をウロウロしては、その外観を見て回っているらしい。
まあ、はじめてやってきて、ここが自分の住まいになるのだから、気になるのも当たり前なのかもね。
「アル。中に入ってちょうだい。あなたの部屋に案内するわ」
入り口のところから、まだ外観を見ているアルに声をかける。
その声に「悪い」と言って、アルが走ってやってくる。
そういえば、そもそも個室の部屋割りの説明ってしてなかったわね。
アトリエの奥の方に、通路を隔てて、左右に部屋が二個ずつ、計四部屋あるの。
そして、向かって左側がくまさんと私の部屋、右側がソックスの部屋と空き部屋となっている。
ちなみに、スラちゃんは特に部屋を持つでもなく、私とともにいるか、リビングで寝るのが常だ。
さらに奥には、湯浴みをするための浴室や、お手洗いなどがある。
おっと、話を元に戻さなきゃね。
入り口から入って、アルにリビングなどの共有部分の説明をしながら、奥にある個人の部屋まで案内する。
「ここが、順番に、くまさん、私、ソックスの部屋ね。ここが一つ空いているから、ここをあなたの部屋にしようと思うの」
私はそう言いながら、未使用の部屋を開けて、アルに見せる。
「小ぶりだけど、いい部屋だな」
アルは、部屋の中に入ると窓を開けた。
「すごい、鳥たちの声だ」
「うん。朝はもっとすごいわよ」
「じゃあ、自然に起こしてもらえるな」
アルは身を乗り出して、外を見回す。
そして振り返ったその表情は、満面の笑顔。
よかった。気に入ってくれたみたいだわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。