第34話 お昼は何にする?

 くまさんがショルダーバッグに入れて運んできてくれた食材は、くまさん自身が「お手伝い!」と言って、食糧庫などにしまってくれた。

 アルが採ってくれた鶏も、ぱっぱと手際良く捌いてくれた。


 アルには、備え付け(なぜかある)の寝具などを、お日様に当てるなど、自分の部屋のメンテナンスをするようにお願いしておいた。

 その監督はソックスに依頼。

 そしたら、なんだかソックスがとっても張り切っていて、その姿が可愛らしい。


 スラちゃんは、久々のというほどでもないけれど、我が家、ということなのだろうか。

 いつの間にやら私の頭から飛び降りて、リビングのソファに移動していった。


 お日様の位置も天頂に近く、窓から日が差し込むこともない。

 そう。お昼が近いということだ。


 さてと。私は、みんなにお昼ご飯を振る舞わなきゃね。

 私はエプロンをつけて、袖をまくる。


 トマト、玉ねぎ、ニンニク、鶏肉、卵。

 そして、昨夜村で振舞われた時に教えてもらった、ご飯のように食べられるという、飯麦。

 ぱっと見は、前世で言うところの、丸麦という感じだ。

 これを前世での米がわりに使って、料理をすることにした。


「まずは、トマトを煮詰めて……」

 トマトソースを作りたかったので、煮詰める時間を考えて、早速取り掛かる。

 トマトのヘタの部分を取り除き、ざく切りにする。

 本当はトマトの皮は湯むきをしてもいいのだけれど、皮があってもいいでしょう。


 大きめのフライパンにざく切りにしたトマトと、みじん切りの玉ねぎとニンニクを入れる。

 そうしたら、サラちゃんの出番だ。

「サラちゃん〜! 火をお願い!」

「頑張るよ!」

 すると、火の精霊のサラマンダーことサラちゃんが現れて、竈門に入って火を起こす。


 コンロは三つあって、サラちゃんが下で火を起こす。

 その三つの出力先は、オンオフを切り替える捻るタイプの切り替えスイッチがあるので、フライパンが置いてある口だけ、オンにする。

 火元は一つで、出力先が三つ。便利よね。


 さて次は……。

 大きめの鍋を棚から下ろし、さてお水、と思ったところで、ふと気がついた。

 ん。そういえば、今日はお水汲みにも行っていないから、お水がないかぁ。

 水汲みは日課にしようと思っていた。

 だけど、今から汲みに行っていたら、いつまで経っても、みんなのお腹はペコぺこのままよね。


「アクア!」


 今私が欲しいものを自在に操れる存在の名を呼ぶ。


「呼んだ?」

 にっこりと微笑みながら、水の精霊アクアが姿を現した。

「料理用のお水を出して欲しいのよ。お願いできるかしら?」

 そう言って、私は大きな鍋を指し示す。


「あら。それは私には簡単すぎるくらいのお願いだわ。それっ!」

 ふふん、と鼻を鳴らし、得意げな顔をしてアクアが鍋に向かって腕を伸ばす。

 すると、ザアッっと音を立てて水が渦になって鍋を満たした。


「わ! あっという間! アクア、すごいわ!」

 私は、思わず目が丸くなる。

 以前お願いしたビーカーを満たす時と、水の量と勢いが違ったからだ。

 そして、あっという間に鍋になみなみと水が満たされる。


「ありがとう、アクア!」

 私の指先に飛んできて座ったアクアに、そっと頬の近くにキスをする。


 アクアはくすぐったそうにしながら、近くでフツフツしだしているトマトを覗き込む。

「お礼はジャムで……って言うところなんだけれど、チセは今、何か食べ物を作っているのよね?」

 鼻をひくつかせながら尋ねてきた。

「うん。今日はオムライスを作ろうと思っているの」

「おむらいす……」

 うん。この世界にはないよね。

 アクアが首を傾げていた。


 うーん。精霊にオムライスを勧めても良いものだろうか?

 ちょっと悩んだものの、アクアは興味深そうにしている。

「……アクアもちょっと食べてみる?」

「いいの⁉︎」

 ぱあぁっとアクアの表情が明るくなった。


「ちょっとー。アクアだけってズルくない? 僕を忘れないでよー」

 竈門で火をこしてくれているサラちゃんから、クレームが入る。

「じゃあ、試しに少しずつ食べてみる? お腹が痛くなったら大変だからね!」

 そう尋ねると、「「やった!」」という合唱が聞こえた。


 彼らはとても小さい。

 二人とも手のひらサイズなのだ。

 彼らの分を作るのは、手間にもならないだろう。

 とすると、冷蔵庫の氷の精霊のシラユキの分も、用意だけはしておいた方がよさそうね。


 そう決まったところで、私は調理に戻る。

 トマトソースになる予定のトマトは、中火で小さくフツフツしているので、まだ放っておいて大丈夫。


 飯麦をアクアが出してくれた水で洗って、水切りをしてから、鍋に入れて水を入れて炊く。

 教わった調理方法はこれだけ。

 むしろ、前の世界でご飯を炊くタイミングを見分ける方が、難しかったんじゃないかしら?


 煮詰まってきたトマトソースに、砂糖がわりの蜂蜜や塩、胡椒を入れて、味を調整する。

 じゃーん!

 なんちゃってケチャップの完成!


 そうして飯麦が炊ける前に、小さく切って塩をまぶした鶏肉に軽く火を通して。

 そこに、炊き上がった飯麦と、ケチャップを足して炒める。

 ケチャップライスが完成!


 ちょうどいい形の器で形を整えたケチャップライスを、お皿の上に載せる。


「そろそろお昼が出来るよ〜!」

 あとは時間の勝負なので、大きめの声でみんなに声をかける。

 わらわらとリビングに集まってきたみんなが、漂う食欲をそそるにおいに鼻をひくつかせる。


「いいにおいにゃん!」

 目を輝かせているソックスには、シルバーの準備を。

「手伝う!」と張り切っているくまさんには、できたお皿から順に並べて欲しいとお願いする。

 アルは……今日はお客様かな?(笑)

 椅子に座って待っていてもらった。すると、彼の頭の上に、スラちゃんがポヨンと鎮座する。


 あとは塩胡椒で卵を溶いて、人数分のオムレツを順番に作って。

 もちろん、オムレツの中身はトロトロでいきましょう!

 それをお皿に盛ったケチャップライスの上に載せていく。

 くまさんが、それを運ぶ。


 精霊さんの分は、味見用の小さなお皿に、小指の先くらいのケチャップライスをのせて、スクランブルエッグを少しずつのせた。


 手のひら大の器に、ケチャップを入れて、スプーンを添える。


 よし! これで、オムレツの完成ね!

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