第17話 ひとりぼっちのケットシー

 みんなで『いただきます』と、最後に『ごちそうさまでした』と言って、感謝を込めた食事を終えたあとは、誰から申し出るわけでもなく、後片付けに積極的だった。


 ただし、スラちゃんだけは丁重にお断りすることにした。


 だって、こんな申し出なのよ?


「僕がパクっとしてお皿を綺麗にするぽよ〜♪」


 こないだの木の器と同じく、スライム液でぬるぬるになっちゃうじゃない!


「なぜぽよ〜!?」


 と当人は憤慨していたけど、それはお断りである。


 くまさんとケットシーは、お皿を流し台に持って来てくれたり、テーブルを布巾で拭いてくれたりと、せっせとお手伝いをしてくれる。


 そして、片付けが終わったあと、小さな小皿を三枚用意して、その中に、今日くまさんに作ってもらったベリージャムを少しずつ取り分けた。


「サラちゃん、シラユキ、アクア〜!」


 いつもお手伝いをしてくれる三人を呼び出すと、サラちゃんとアクアがぽうっと宙に現れる。


 シラユキは冷蔵庫の中から、扉をすり抜けてやってきた。


「いつものお手伝いのお礼のジャムよ。ベリージャムがダメな子はいるかしら?」


 そう言って尋ねてはみたものの、皆の目はジャムに釘付けで、きっと大好きなのだろうと、見ているだけでわかってしまうくらいだった。


 一通り後片付けを終わらせて、精霊達はジャムを舐め、他のみんなは森で摘んできたカモミールのハーブティーをみんなで飲んでいると、ケットシーが部屋をキョロキョロし始めた。


 なんか、前に来た時にも、こんなことあったような……。


「ねえ、ケットシーさん。そんなにキョロキョロしているの?」


 すると、ケットシーがハッとした顔をして、モジモジし始めた。


「ボク、仲間から逸れちゃったんだにゃ」


 そして、しゅんと俯いた。


「あ、僕も仲間とはぐれて一人ぽっちだったんだよ!」


 そこに、くまさんが僕も! と言い出して、ケットシーがパッと顔を上げてくまさんを見つめた。


「一緒、一緒! 仲間だよ!」


 くまさんは陽気に、まるで、をやるように、お互いの手のひらを重ね合わせて揺らす。


 仲が良いのはいいとしても……。


「そんなに、この森は一人ぽっちの子が多いの?」


 それはどう言うことだろう? と私は疑問に思って尋ねてみた。


「昔はね、この森はとても恵みに溢れた豊かな森だったんだけれどね、今は以前ほど花もあまり咲かないし、木の実も実らないんだ。少しづつなんだけど、減っていってる」


 くまさんの言葉に、ケットシーが同意するようにうんうんと頷く。


「以前ってことは、何かきっかけでもあるの?」


 私が尋ねると、二人は揃って頷いた。


「昔は、ずっと遠くにある竜王様のところに、聖女様がいたのにゃ」


「聖女様」


 まるで、まんまファンタジーな世界観のその言葉に、私は言葉を繰り返してしまう。


 でも、竜の聖女様? なんかすごく強そうな聖女様ね。


「そう。聖女様だよ! 聖女様がいた頃は、病気も夜に寝れば治っちゃったし、森に食べ物がいっぱいあったんだ!」


「うーん、ってことは、もういないってこと?」


 私が尋ねると、ケットシーが悲しそうに髭と尻尾を下げて、うん、と首を振った。


「聖女様は人間のお姫様だったらしいにゃ。だから、あっという間に死んじゃったのにゃ。それで、この森の実りはどんどん乏しくなりつつあるから、僕の仲間は今のうちにって言って、実りの豊かな地域を求めて移動しちゃったのにゃ」


「じゃあ、ケットシー、あなたも、その移動の群れからはぐれて、一人ぼっちなのね?」


 私は席を立って、ケットシーの元へ行って、彼を抱き上げてギュッとする。


「だったら、うちで一緒に暮らしましょう!」


「いいのかにゃ!」


 うるうるしたケットシーの緑の瞳が私を見上げてくる。


「ここのおうちは、お部屋もたくさんあるから大丈夫」


 すると、涙腺が緩んでしまったのか、ケットシーがうにゃああん! と泣き出してしまった。


「ひとりぼっちは寂しかったのにゃー! 嫌だったのにゃー! もうチセから離れないのにゃー!」


 私が抱き上げたその背中を、よしよしと撫でる。


「大丈夫、大丈夫。もううちの子に決定よ。名前をつけましょう」


「名前にゃ?」


 泣き止んだケットシーが、こてんと首を傾げた。


「だって、ケットシーは、種族としての名前でしょう?」


「そうにゃ」


「だったら、ちゃんとした自分だけの名前をつけてあげないとね……何がいいかなぁ」


 じっと抱き上げているケットシーを見る。


 すると、そのハチワレの額とソックス足にどうしても目が止まった。


「あ、ハッチ、ハチ、ソックス、くつした」


 ……あ、ネーミングセンスないかな?(汗)


「ソックスがいいにゃ! なんかカッコイイ響きだにゃ!」


 ケットシー改め、ソックスがそう言うと、彼の体がぴかっと光った。


 そして、お約束のように私の頭の中に声が響く。


『テイムしたことにより、スキル【舞踊】を取得しました』


 ……ちょっとなんの役にたつのかわからないけれど。

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