第7話 ケットシー
「あなたは、ケットシー?」
「そうだにゃん! お前はそれで何を作るんだにゃん! しかも、スライムや小鳥達と仲良くしていて怪しいにゃん!」
どうも、私と小鳥のやりとりを見て、気になってやってきたらしい。
ケットシーが好奇心の強い妖精だというのは、本当みたいね。
我慢ができなくなって、姿を表したのだろう。
……ふふ。お客様、一名追加ね。
ケットシーは、後ろ足二本で立っていても、私の腰ほどまでしか背丈がない。
白黒のハチワレ(額が八の字に色分けされていること、顔は白い)はバランスが良く、美猫さんと言えるだろう。
……可愛い! ぜひ仲良くなりたいわ!
だから、私はしゃがんで互いの目と目を合わせる。
「あのね。これからパンケーキを焼いて、バターとこのベリーをフランベしたものを載せるのよ」
丁寧に説明をすると、ぼんやりと夢想しているケットシーの口が緩み、つーっと一筋涎が垂れた。
「はっ! 紳士たる僕としたことがっ!」
前脚でゴシゴシと口元を拭った。
「素敵なお客様? よかったら、ブランチをご一緒しませんか?」
「ブランチ?」
初めて聞いたのだろうか、ケットシーが首を傾げる。
私は空にいるお日様を指さす。
「朝食というには遅すぎて、と言っても、お昼にはまだ早いでしょう?」
「うにゃ!」
ケットシーは、好奇心で、目がまんまるになっている。白い髭も前のめりになっていて、これは猫さんの『楽しい、嬉しい』の証だわ!
「そう言うときに、朝食と昼食を一度に食べる、ちょっと贅沢な食事をブランチって言うのよ」
そう説明し切ると、どうですか? とばかりに私はケットシーに手を差し出す。
「楽しそうにゃん! 僕はお呼ばれするにゃん!」
私の手の中に、ちょこんとクリームパン型の前脚が載せられた。
猫の前足って、クリームパンみたいと思うのは、私だけじゃないよね!
私は、ケットシーをエスコートして我が家へ招き入れる。
帽子は玄関で脱いで、帽子掛けにかけてあげた。
あとは、案内したテーブルに座って待ってもらった。
「湯ざましでごめんなさいね、あとでハーブティーを入れましょう」
そう言って、喉が渇いているかもしれないケットシーに、まずはコップに入れたお水を提供する。
「気が利いてるのにゃ」
ケットシーはご機嫌。だって、お髭が、ずーっと前を向いたままだもの!
ではでは。
今日はお客様をお招きしてのブランチといきましょう。
「エプロン、エプロン……」
厨房の壁につけたれたフックから、背伸びしてそこにぶら下がっているエプロンを取る。そして、今着ているワンピースの上から身につけた。
まず最初に、小鳥たちが集めてきてくれた新鮮なベリーたちを、バターとお砂糖でフランベしよう。
「サラちゃん、竈門お願い! 最初は弱めでね」
「任せて!」
竈門の中に現れたサラちゃんが、お返事をすると、その体からごうっと火が生まれる。
「うん、火加減もちょうどいいわ、ありがとう!」
私はサラちゃんにお礼を言ってから、小さめのフライパンの上にカットしたバターを乗せて、焦がさないように溶かす。そして、洗って水分を切ったベリーを種類を選ばず放り込む。
上から、パラパラとお砂糖をまぶす。
調理しながら、これって、バナナでやるとめちゃくちゃ美味しいんだよなぁ、と思い出した。
でも、この世界にバナナってあるのかしら?
人里を見つけたら、聞いてみようかな。
そんなことを考えながら、軽く熱を加えたベリーを皿に移す。
フライパンの油分を布巾で拭いて……。
前の世界のテフロンのフライパンなら、さっと洗っちゃうところ。
けれど、このフライパンはどうみても鉄製。
水で洗うのは最後の最後に極力避けたいのだ。
というわけで、拭いたフライパンは、あとで再利用すべく、置いておく。
卵は、黄身と白身に分ける。
私が作ろうとしているのは、メレンゲのふわふわの力を借りて、ふわしゅわにさせるからね!
次に、ボウルに小麦粉と砂糖を入れてスプーンでグルクル混ぜる。
そして、牛乳と卵黄を加えて粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
別のボールに分けておいた卵白を、泡立て器で頑張ってメレンゲにする。
うーん、ハンドミキサーが欲しいよう。
メレンゲができたら、三回くらいに分けて、他の材料を混ぜた物を加えていく。
底からすくい上げるように優しく混ぜてね。
これで、タネは完成よ!
そうしたら、フライパンにバターを溶かして、タネを掬って弱火でじっくり焼いていく。
「サラちゃん、じわじわ、弱火でお願いね」
「任せてよ!」
竈門のなかを覗き込んで、サラちゃんにお願いした。
そうして、まとめ焼きしながら次々にパンケーキを焼き切った。
……うん、ふわふわに仕上がったわ!
あとは飲み物用のお湯を沸かして。
泉で積んできたハーブのうち、ミントをポットに入れて、お湯を注ぐ。
さ、あとはみんなで食べるだけね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。