第3話 お夕飯作り

 探し当てたまな板の上で、食材を切っていく。

 じゃがいもは悩んだけれど、サイコロ大に切る。ベーコンは短冊切り。玉ねぎは筋を断つ方向に細切り。


 あれ? この世界って、火ってどうするんだろう?

「ねえ、スラちゃん」

「なぁに〜?」

 ソファから眠そうな声がした。

「この世界、火ってどう起こすの?」


 私が目の前に立っているコンロらしいものの下は、竈門になっていた。

 そうすると、薪とか、火おこしが必要になるのだろうか?

 あんまりに恵まれ過ぎた環境あったので、肝心の火について考えるのを失念していた。


「チセ、キミ召喚士なんだろう? だったら精霊を呼べばいいじゃないか」

 なあんだ、つまらない、とでも言うようにスラちゃんは再び寝ようとする。


「え? 召喚士? 精霊?」

 うーん。スラちゃん、不親切。

 あの鑑定は、スラちゃんの性格を反映しているんじゃないかしら!

 私は少し頬をぷうっとさせる。

 でもそれじゃあ、目の前の問題は解決しない。


「精霊で火といったら、サラマンダー?」

 私は、なんとなく呟くと、目の前にぽうっと明るい火が灯る。

「えっ!」

 私の目の前に現れたのは、赤い小さなトカゲさんだった。

「呼んだ?」

「えっと、サラマンダー?」

 コクコクと頷くトカゲあたらめサラマンダーは、目を細めてご機嫌みたい。


「サラマンダーって自分の名前?」

 ちょっと気になってサラマンダーに尋ねてみる。

 サラマンダーは首を横に振る。

 ということは種族名ってことかなあ。


 だったら、スラちゃんのように名前が欲しい。

 うーん。スラちゃんの時もだけれど、やっぱり愛称レベルでも名前で呼びたいな。

「サラマンダー。サラちゃん、ファイアー、ボーボー?」

 我ながらセンスを疑うような名前しか出てこなかった。


 そこに、首を振って答えるだけだったサラマンダーが、急に喋り出した!

「サラ! サラがいい!」

 その中でまともなものを、サラマンダーは気に入ったようだ。

「じゃあ、サラちゃん。私はチセよ。よろしくね!」

 そう告げると、また、私とサラちゃんがキラキラと光った。


 そして、謎の声も聞こえた。

『テイムしたことにより、火魔法を継承しました』


 ……これ、スラちゃんの時もあったよね。


 あれちょっと、頭の声さん。私、魔法使えるようになったの?

 まあ、とりあえず、調理途中の料理が先よね。


「ねえ、サラちゃん。竈門に入ってゴーって火を起こすのって頼めるかな?」

 新品とはいえ、暗くて狭い竈門に入ってもらえるものだろうか? と少し不安になりながら、尋ねてみる。

「お安い御用さ! 火加減は言葉で指示してね!」

 なんと、気にしないでくれるらしい!


 サラちゃんは、竈門の中に入って、発火してくれた。

 その火は、調理するには十分な火力だった。

「ありがとう! それくらいの火加減でちょうどいいわ!」


 そういうわけで、調理を再開する。

 切った食材をお鍋に入れて、溶かしておいたバターで炒めて、小麦粉をふるって満遍なく散らす。

 もう一度軽く炒めたら、牛乳を少しずつ入れて、お水を足す。


 本当はここでブイヨンとか、お出汁が欲しいところなんだけれどなあ。

 まあ、そこはおいおい考えよう。

 さてと。とろみがついたら、簡単シチューの出来上がり!


 お塩と胡椒で味の調節をしてっと……。

 完成!


「サラちゃん、ありがとう。もう火はいいわ」

 私がお礼を言うと、サラちゃんはご機嫌な顔で、竈門から出てきた。

「じゃあ、また何か用事があったら呼んでよ!」

 そう言って、消えていこうとするサラちゃんを、私は慌てて呼び止める。


「あ、待って!」

「ん? なぁに?」

「あのね、一緒にお夕飯食べる? パンとシチューなんだけれど」

 その言葉に、うーんと首を傾げるサラちゃん。

 彼はふわりと宙に浮いて、鍋の中身とパンを見比べる。


「僕にはちょっと合わないかなあ?」

 首を傾げて消えてしまった。


 あらら、残念。ふられてしまった。

 ちょっとお手伝いだけしてもらうっていうのもなんだから、サラちゃんの好きなものも探さないとね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る