第5話 小鳥さん

 次の日の朝。

 私は、森の小鳥達の囀りの声と、窓から差し込む朝日に、優しく起きなさいと言われるようにして目を覚ました。


 スラちゃんは、すでに我が家とでもいうように、夜もソファで眠った。

 そして、まだ起きる様子はなさそうである。

「……起こしちゃかわいそうよね」


 スラちゃんを起こすのは後にしよう。私は窓辺へ移動する。

「それにしても、お腹が空いたわね」

 部屋の窓から差し込むお日様に私は目を細める。

 もうだいぶ上空へ登ってきてしまっている。

 どうりでお腹も空くはず。


 神様はとても気配り屋さんらしい。

 当面小屋の中で食べていけるくらいの食料も、この小屋には存在していた。

 小麦粉、蜂蜜、塩、卵、ベーコンなどの保存の効く肉類、などなど。

 だから、最初からお金を稼いで食料を揃えないと、というほどではなかった。


 ……だったら、まずはのんびりしたいわ。

 この森はとても心地がいいしね。


 とは言っても、お水は新鮮な方がいい。

「今日はまず、お水を探しに行こう!」

 私はまだ起きたばかりで薄い夜着のまま。

 洋服箪笥の中からワンピースを取り出して、着替える。

 そして、鏡台で髪を透いてから、高い位置でふわふわの銀の髪をツインテールに結った。


 ……よし!

 

 あ、そうだ。薬草があったらついでに摘んでおきたいから、ショルダーバックを肩から下げて。

 私は、アトリエの玄関を開けて外へ出ると、水汲み用の木桶を持った。

 そして、スラちゃんを起こさないよう、そうっと玄関の扉を開ける。


 すると、待ってました! とばかりに小鳥たちが森の中から飛んできて、私の周りと飛び回る。

 彼らは私のお友達になってくれるかしら?


「可愛い小鳥達ね。私はチセ。あなた達は、ピーちゃん、チュンちゃん、ピッピちゃんでどう? お友達になってくれない?」

 首を傾けて、彼ら三羽にお願いをしてみる。

 すると、私と小鳥達がやはり淡く発光した。


「「「お手伝いする!」」」

 お願いは成功したみたい!


『テイムしたことにより、【警戒】【察知】【俊敏】を取得しました』


 ……相変わらず頭の中の声はバグ状態みたいだけれど。

 森の中で生活をし始めて、どんどんお友達が増えてきて嬉しい。


「一人は、綺麗な泉がある場所を教えて欲しいの。残りの子は、美味しそうな食べごろのベリーがあったら摘んできてくれないかしら?」

 ベリーは、たくさん取れすぎたらジャムにするのが定番だけれど、量が少ないなら、生もいいし、少しフランベしたものをパンに乗せても美味しい。


「わかったよ!」

「ベリーだね!」

「私のアトリエの玄関脇にカゴがあるから、そこに入れておいてね!」

「「了解したよ!」」

 そう言って二羽の小鳥たちは飛んでいってしまった。

 私のアトリエの入り口には、小さな棚と、その上に載せたカゴがある。小鳥達にはそこに森の恵みを私に分けてもらうことにした。


 卵はまだストックがあったし、保存食のベーコンもある。

 それにパンを添えて、デザートは小鳥さん次第かしらね。


 いや、小鳥さんがベリーを持ってきてくれるなら、パンケーキを焼いた上に、バターを乗せて、フランベしたベリーを載せる。

 うーん、香ばしくて美味しそう!


 一羽の小鳥は、私を泉へと誘う。

 私は、まだ空の木桶を持って、美味しそうな朝食……。もうブランチかしら? の予感にスキップしながら泉に向かうのだった。


 そうして無事、小鳥さんの道案内で泉にたどり着いたのだった。

 そうだ。念のため、水の質を鑑定しておこうかしら。


【泉の水】

 詳細:湧き水がもとでできた泉の水。とっても綺麗。沸かせば飲用可能。

 夏には水浴びしたいね!


 ……なんか、鑑定結果にスラちゃんの私情が入っている気がする(汗)


 水汲みをする泉が清浄だからか、周囲には薬の材料になる薬草がたくさん茂っている。

「これは、癒し草。……こっちは、苦味取りの実ね。そしてこっちが中和の葉」


 そうして、野原にしゃがんで茂みをかき分けて、薬草の葉を丁寧に積んでいく。

 ギリギリ午前中の薬草達は、瑞々しく、イキイキと元気がいい。

 私はこの時間の薬草摘みも大好きになる予感がした。

 そして、その中でもまだ若い柔らかい葉を摘んで回った。


 泉で布巾を濡らして絞る。

 その布巾で薬草達を大事に包んで仕舞い込む。

 これをしないと、あっという間に葉が干からびてしまうわよね。


 前世でも、冷蔵庫で葉野菜を干からびさせたりしてたものね……。

 要注意、要注意。


「畑を持てたらいいんだけれど……」

 そうすればきっと鮮度の問題は解決する。


 まあ、そんな、愚痴っぽい話はちょっと置いておこう。

 今は私にできることをコツコツとやるべきよね。


「うん、今日のお仕事分は十分に採れたわね」


 泉のそばに放り出してあった木桶を取りに行って、丁寧に水を汲む。

 ちなみにこれは私の飲食用。これだけ綺麗な水ならば、沸騰してから使えば十分だろう。


「よいしょっと」

 それなりに重さのある中身の入った木桶の取っ手を両手で持って、私は自宅に向かって帰るのだった。

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