『4、K大学の謎の教授』
その、少しだけ白くなったパサついた髪をした黒縁眼鏡の落ち着いた中年男性は、俺が思った通りK大学の教授だった。
痩せた長身と髪の
彼は俺たちに
なんだか先生にお説教をされるみたいな立ち位置だ。少しきまり悪い気分になっていると、菱山教授は
「君たち、面白い事をしているね。事件の捜査をしているなんて探偵さんかな?」
「あ、いや、その……」
また菱山教授は優しく笑った。
「話は勝手に聞かせてもらったよ。金髪のお嬢さん、君のお姉さんが任意同行されて事情を聴かれている女性の妹さんだね」
手のひらを向けられて、美波ちゃんはおずおずと自己紹介した。
「はい。
俺と芽衣も慌てて名乗る。
「
「妹の芽衣です」
「なるほど、君たちは兄妹か。よく似ているね」
まるで近所に越してきたオジサンのようにニコニコ頷くと、菱山教授は再び美波ちゃんに顔を向けふわりと言った。
「お姉さん思いだね」
一瞬泣きそうな顔になったが、彼女は唇をぎゅっと引き結んで勢いよく頭を下げた。
「お願いします、知っている事なら何でもいいんです、教えてください。あの刑事さんは先生に何を訊きに来たんですか?」
ううむ、と菱山教授は顎に手を当てた。
「本当は言っちゃいけないんだけどね……」
「そこをなんとかっ!!」
俺は菱山教授を拝み倒した。
菱山教授は、ふふっ、と
「実はね、出水くんの死因はテトロドトキシンらしい」
「テトロドトキシン──っ!?」
俺たち三人はそろって大袈裟に驚いた後、そろって首を捻った。
「お兄ちゃん、テトロドトキシンって何?」
こそっと芽衣が俺に耳打ちしてくるが、喉元まで出かかっているのに思い出せない。サラリと
「……それって何ですか?」
「一部の
「フグの毒……?」
「他にはヒョウモンダコがテトロドトキシンの
説明されても、フグの毒という事以外ピンと来なかった。
「それで、出水氏の死因がテトロドトキシンだということと、菱山教授にどんな関係が?」
俺の
「僕の専門は海洋生物の毒なんだよ。だから剣崎刑事は僕に話を訊きに来たんだろうね」
「なるほど」と、俺がまぬけな納得の仕方をしていると──
「ちょっと待って!」
美波ちゃんが大声を上げた。
「死因がフグの毒ってことは、出水さんはフグを食べて亡くなったって事ですよね。だとしたら、ただの
「残念ながら、そうとは言えない」
気の毒そうに菱山教授は目を伏せた。
「
「どういう意味ですか……?」
「テトロドトキシン
菱山教授は重ねて毒の
「フグの
「そんな──っ!!」
美波ちゃんはフラッとよろけて
これは、完全に殺人事件だ。
しかも現場は他の人物が近付きにくい海の真っただ中──これじゃ、出水氏とふたりきりでヨットに乗っていた凪砂さんが犯人として疑われるのは当然だ。
「ただし──」
チッチッ、と菱山教授は
「出水くんの
「えっ?」
「お嬢さん方の前で恐い話をして申し訳ないが、
「そこまでしても見付からなかったなら、注射痕はそもそも無いんじゃないですか?」
おれは思わず、そう言っていた。
「そう考えるのが普通だね。それで、経口摂取でもなく注射でもない方法で、どうやってテトロドトキシンをターゲットの血中に入れられるのか、刑事さんが僕の意見を訊きに来たんだ」
「どうやるんですか?」
「残念ながら……おっと……また、お嬢さん方の前で失礼するよ。僕はね、
専門家の菱山教授でさえも、ご自身で仰有るように月並みな方法しか思いつかず、そして、考えられる三つの方法のどれでもないとなると──
これは、
だが、犯人は
でも……いったい、どうやって……?
◆◆◆
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