『4、不思議の国のメイド』
追いかけているうちに、
相変わらず泣いているようで、握りしめたタオル地のハンカチで時々目元を押えている。店で見た時は特に取り乱している様子は無かったのに、人目も気にせずあんなに泣くなんて、急に何が起きたのだろう?
十五分ほど歩いて、途中右折し、
人通りが
更に五分ほど歩いた後、白石妃菜は、華やかなメイド姿の女性には不似合いの古ぼけた
エントランスは無く外階段から直接
「ここは?」
「さあ?」
「事件に関係のある場所でしょうか?」
ヤバイ
足音を立てないよう
玄関ドアには『白石』と素っ気ない表札が出ていた。
どうやら彼女の自宅のようだ。
通路に面した窓が少し開いていて、中の様子が
その窓から部屋の中を盗み見て1Kだと分かった。
狭いキッチンの一部と
「ずいぶん静かですね?」
「中で何をしているのかしら?」
数分、その場で待機していたが、中からは何の気配も感じられない。
そわそわした様子で芽衣が呟いた。
「ねえ、お兄ちゃん。あの人、出水さんを殺したかも知れない人なんだよね? ドラマみたいにベランダから逃げちゃったりしてないかな?」
「あ──っ!! なんでその可能性を考えなかったんだっ!!」
「そうですよ、お兄さん。あの人が逃げちゃってたらどうしましょうっ!?」
俺と美波ちゃんが慌てる横で、剣崎刑事は即座に行動に移った。
「警察ですっ!! 開けなさいっ!! 開けないとドアを
叫びながらドンドンドンッと玄関ドアを
これは逃げられたかもしれないと
「なんなのよっ?」
出てきた白石妃菜は手首からダラダラ血を流していた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああぁっ!!」
俺は思わず絶叫してしまった。
血は意外と苦手ではないのだが──そうでなければ歯科助手は務まらない。治療中に
「なんて事をっ、早く止血をっ!」
さすがに剣崎刑事は冷静で、手早くハンカチを取り出し、彼女の傷口を
芽衣と美波ちゃんはオロオロしている。
「罪の意識に
応急手当てを終えてから
「何の話?」
「あなたが
数秒の
「はあ?」
白石妃菜は思いっきり
「そんなわけないじゃない。私は出水なんて殺してないわよ。絶望的な事が起きたから死にたいだけなの。警察だか何だか知らないけど、騒がないで放っておいてよっ!」
「え?」
「だから、絶望的な事が──」
「いえ、そうではなくて……出水さんを殺してないんですか?」
どうにも話が
「すみません。少し部屋の中でお話を伺っても構わないでしょうか?」
「え……まあ、別にいいけど……」
白石妃菜は、なぜか俺だけを
「私、自分の部屋に男は入れないって決めてるんだよね。けど、そういう恰好でメイクまでしてるってことは、あんた、
「え? 俺? あ、いや、その……」
「うん、ごめん。言い難い事は言わなくていいよ。私、
ああぁ~~~っ!!!
そう言えば、俺、まだ女装のままだった。
◆◆◆
色々
漫画も多いが小説や
しかし、カーテンやベッドカバーはフリルの多いラブリーなピンクで、大きな白いクマのぬいぐるみも
小さな白いテーブルを中心に全員が座れるほど部屋は広くなかった。
床に
「さっそくですが、あなたは出水頼次さんとどういったご関係だったんですか?」
白石妃菜と向かい合う場所に座った剣崎刑事は
「ただの客だけど?」
はあ? と呆れた様子で白石妃菜は首を
思わず、俺は横から口を出してしまった。
「で、でも、メイドカフェの店長は出水氏とあなたが付き合っていたと言っていましたよ!」
良く言えば裏の無さそうな、悪く言えば頭の悪そうな、あの店長が嘘をついたとは思えない。あの人は、白石妃菜と客の出水氏が付き合っていると本心から(そんな
松林准教授も出水氏はメイドと付き合っていたと言っていた。
だから、二人には何らかの関係があったはずなのだ。
事情を察したのか剣崎刑事は俺にアイコンタクトを送って来た。コクンと
「白石さん、先週の木曜深夜に出水さんが亡くなった事はご存じですよね? あなたの
剣崎刑事は
手首の傷を指差して自殺未遂と言われた白石妃菜は、取り乱すかと思っていたのに予想外の反応をした。
あっけらかんとした
「え? あんな男どうでもいいわよ。私はヘタレ社長になんか興味無いの。私が愛してるのは世界でたった一人の素敵な人、りったんだけよ」
「りったんて……誰ですか……?」
◆◆◆
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