『3、ここで刑事に遭遇する?』
遠目に見覚えのあるシルエットを認めて、俺は思いきり仰け反った。
「うげっ」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「どうかしたんですか、お兄さん?」
「ヤ、ヤバイ人が……っ!!」
思わず声に出して言ってしまった。
なんと、黒いパンツスーツで黒いカバンを肩に掛けたキツイ表情の剣崎刑事が、すぐそこの
他にも何人か通行人はいるのに、剣崎刑事は
うわぁ、今日も怒りのオーラを
ただ歩いているだけで迫力が凄い。
「どうしよう、お兄ちゃんっ?」
「どうしますか、お兄さんっ?」
芽衣と美波ちゃんが
「あなたたち……!?」
剣崎刑事は呆れたように口を開けた後、案の定、物凄い顔で俺たち──特に女装の俺──を睨みつけてきた。
「どうしてここに居るの? もうGPS発信機は仕掛けてないわよね? って言うか、その恰好は何のつもりなの? ううん、それよりも、また捜査に首を突っ込んで来たら
のべつまくなく
「あっ!!」
「なんなの? もう変な手には乗らないわよ?」
「違います、あの人、あの人が──」
メイドカフェから白石妃菜が泣きながら飛び出してきたのだ。
店の前に突っ立っていた俺たち四人に構う様子も無く猛ダッシュで剣崎刑事が来たのとは逆の方向に走って行ってしまう。
「追いかけなきゃっ!!」
「どういう事っ!??」
剣崎刑事のみならず、芽衣と美波ちゃんも声をそろえる。
まだ何の説明もしていないから、たった今走り去っていこうとしているメイド姿の女性が何者か知らないのだ。
「事情は後で説明します。とにかくあの人を追いかけましょう。出水氏を殺した犯人かも知れないんです」
「ええ──っ!!??」と芽衣と美波ちゃん。
「そういう事は早く言いなさいっ!!!」と剣崎刑事。
「かなり早く言いましたよっ!!」
「いいから、とにかく一緒に来なさいっ!!」
「えっ、いいんですかっ!?」
捜査に首を突っ込んだら公務執行妨害で逮捕するかもって──
「いいもなにも説明してもらわなきゃいけないでしょ。サッサと走るっ!!」
「はいっ」
なにがなんだか分からないまま、俺たちは白石妃菜を追いかけた。
◆◆◆
幸いと言うべきかどうか、白石妃菜はあまり足が速くなかった。
しかも何かに気を取られているようで一目散に目的地に向かって走って行く。一度も後ろを振り返らず、したがって、追いかけている俺たちにもまったく気付かなかった。
白石妃菜は、剣崎刑事が現れたのとは逆の方向に駆けて行き、
通行人の波の
不思議の国のアリスの逆バージョンで、こちらがウサギになってアリスを追いかけているようだ。
かかとの高い靴のせいか、
「それで、どういう状況なの?」
「ええと、ですね……かいつまんで説明しますと、あの人は白石妃菜といって、出水氏と交際していた女性で、しかもテトロドトキシンの出どころエトセトラを知っています」
なっ、と大声を上げかけてから剣崎刑事は慌てて口を押え、しばし息を整え、怒りを
「ちょっと待って。どういう事? どうして、あなた、出水頼次さんの
「それは、その……菱山教授に……」
俺は白石妃菜を追って小走りしながら、菱山教授が出水氏の死因を教えてくれた事、松林准教授から彼がテトロドトキシンを盗んだ出水氏に返すよう話した席に出水氏と
「そんなわけで、名刺の女性が勤めているメイドカフェに、こうして女装して体験入店を利用して潜入しまして、店長からそれとなぁく話を聞き出し、出水氏と付き合っていたメイドを突き止めたんです」
「なんですってっ!? どうして誰も彼も捜査に首を突っ込んで来るのかしら、もうっ!!」
剣崎刑事は小声で
「今は
「え?」
「今、彼女を
「は、はいっ」
「それにしても、彼女はどこへ行く気かしら?」
◆◆◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます