第五章
『1、潜入捜査は十八歳以下お断り』
明けて、日曜日の朝──
凪砂さんは、一晩自宅で休めたとはいえ、デート中に恋人が亡くなってから息つく暇も無く警察に任意同行され、木曜の深夜から土曜の夕方まで警察から帰れず事情聴取を受けていた
美波ちゃんはお姉さんを見送り、すぐに我が家にやって来た。
まだ十時前である。
美波ちゃんは泣きたいのを
しかし、今日も俺たち三人が集まったのは作戦会議をする為だ。どうやって凪砂さんの無実を証明するか、昨日得た手掛かりを生かす術を俺たちは考えねばならない。
松林准教授から聞き出した出水氏と付き合っていたという女性が勤めている『モダン・ヴィクトリアン』というメイドカフェは新宿駅の東口側にあると分かっている。
問題は、いきなり
ネットで検索してみて、くだんのメイドカフェには
「俺が行く」
そう
「さすがに
「そうですよ、無茶ですよ、お兄さんっ!」
俺がメイドとして体験入店をし出水氏の
あげくに自分たちが体験入店をして
「ふたりとも、このサイトのメイド
「なに言ってんの、お兄ちゃんーっ!」
だが、世間知らずの妹たちに(まあ、俺もたいがい世間知らずなので二人の事ばかりは言えないが)、よぉく言い聞かせねばなるまい。
「だいたい、メイドカフェは男性客が
はああっ、と二人は呆れたように溜息をついた。
ううむ、そんなに無理があるだろうか……
確かに俺は芽衣より背が高い。とはいえ、芽衣は
「お兄ちゃん、絶対無理だってーっ!」
「いや、いける。大丈夫だ。俺は
「何本か……って少ないよっ。お兄ちゃんバカじゃないのっ?」
「いえ、分かりました」
意外な事に、ここで美波ちゃんが助け舟を出してくれた。
「メイクは私がします。慣れてるから、もしかしたらなんとかできるかも……」
「まあ、なんとか……喋らなければ女性に見えなくもないかも……」
「しかし
サクッと言ったら、
「お兄ちゃんがどうしてもやるって言ったんでしょ!」
と芽衣に怒鳴られた。
まあ、とにかく、十二時少し前には準備が整った。
俺は
◆◆◆
くだんのメイドカフェ『モダン・ヴィクトリアン』は、新宿通りを真っ直ぐ進み、
大通りに面した場所とは違い、なんとなく
美少女二人を新宿なんぞの路上に突っ立たせておいたりしたら変な男がおかしな考えを持って寄って来るのではないかと、兄としては気が気でない。女性客の多い店にいてくれれば少しは安心だ。
さて、家を出る前に当日体験入店をさせて欲しいという電話はしておいたので──俺の声では断られるかもしれないと危惧したので電話だけは芽衣にしてもらった。もちろん、後の面倒を避ける為に俺のスマホから──すんなりと店に入れたし、履歴書を用意する必要もなく、面接は約束通り受けられた。俺は本名の真之を改変して
「真実ちゃんか。可愛いね。お姉さん系っていうか、ちょっとクール系?」
なぜか俺の面接をする店長はノリノリだった。
よもや、女装した俺にこんなに食いつく奴がこの世に存在していたとは……
芽衣と美波ちゃんはパンケーキ屋で待機させておいて良かった。あの二人はかなりの美少女だからな……メイドカフェの体験入店などという潜入捜査をさせてしまったら、きっと変な男に目を付けられて大変な事になったに違いない。ストーカーなんかに付き
なんとなく
「でも声は電話の時とちょっと違うね。風邪でも引いてる?」
「え、いいえ、その、ちょっと
「ああ、合唱部~っ。良いね、お嬢様っぽい」
一瞬焦ったが、この店長は
「働かせてもらいたいんですが、実は、出水さんってご
ああっ! と店長は両手を打った。
「出水さんは良いお客さんだったんだけどね。みんなビックリしてるよ。急に亡くなるなんてね。しかも、あれでしょ……殺人かもしれないんだよね。
「さ、さあ……?」
俺は誤魔化す為に
「とりあえず、体験入店は私服にエプロンだけ着けてくれれば良いから。その花柄のワンピース可愛いから大丈夫そうだね。入店が決まったらメイド服を支給するからね」
「あ、は、はい」
俺は店長に手渡された白いフリフリのエプロンを自前のワンピースの上から身に着けた。
「うん、良いね、良いね。すっごく似合うよ~っ。注文を取るのは難しいと思うから、キッチンさんが出すドリンクとケーキを言われた席のお客さんに運んでくれるだけでいいからね。うちは入口から時計回りにテーブルナンバー振ってるから覚えやすいはずだよ。じゃ、一時間頑張ってくれたら二千円払っちゃうからね~っ!」
「ど、どうも」
◆◆◆
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