『2、嫌味な准教授ふたたび』
それでも、手掛かりを求めて再び松林准教授には会わねばならない。
あの不機嫌な人に会いたくないと思っていたからこそ、女装してメイドカフェへの潜入調査までしたというのに、結局、こんな
今度は菱山教授は介さず、剣崎刑事が「これは捜査です」とキツめの口調で告げ、やや
あくまでも協力を
松林准教授は、昨日と同じ西新宿のカフェに来てくれることになった。
剣崎刑事は自分たちがK大学のあるS市まで行くと言ったのだが……
松林准教授は「どちらが相手のいる場所に向かうとしても移動時間は同じだから自分が行く」と一見こちらに気を遣うフリで地元を避けた。
テトロドトキシンを盗まれるという失態を犯した以上(しかも後から金をもらって結果的に売った様子だし)すでに彼の立場は充分以上に悪くなっているのだが、警察にあれこれ聞かれている姿を学生や大学の関係者に見られて更に立場が悪化する事を
無駄な足掻きのような気もするが……
さすがに女装のままで松林准教授に会う事は
気分はサッパリしたが、なんだか無駄に金を遣っている気がするし妙に大荷物になってしまった。計画性は大事だ。こんなことなら最初から着替えや
俺が余計な事を考えているうちに松林准教授が現れ、
席につくと店員が注文を取りに来て、すぐに五人分のコーヒーが運ばれてきた。
剣崎刑事は注文したコーヒーに口も付けずに切り出した。
「あなた、出水さんのレストランで、彼と、白石妃菜さんと一緒に食事をした事があるそうじゃないですか。どうしてその件を話してくれなかったんですか?」
「はあ? どうしてだと? 出水がメイドの名前を教えなかったからに決まっている。女も取り澄まして『名前は秘密でぇす』などと言っていたしな。名前も知らない女の話をしたところで、あんたが得られる情報は無かっただろ。だから、その女がメイドだって話だけしたんだろうが。役に立たない話までする必要があるか?」
うぐっ!!!! あっという間にストレスが溜まる。この人、相変わらず嫌味な話し方だなぁ。
俺はさっそく心が折れそうになっていたのだが、剣崎刑事はさすがだった。表情ひとつ変えずに質問を続ける。
「出水頼次さんがテトロドトキシンを隠し持っている事を知っていた人物が、あなたを含めて、最低でも三人居た事は理解していますか? つまり、あなたと、白石妃菜さんと、もう一人」
「ああ、知ってるよ。出水が『ヨットに乗せる』って口約束をしていた
ひえええぇ、この人、ホント、口さがないっ。「年増でデブス」って、リアルではなかなか口に出せない
「でも、あれはただその場を取り
コーヒーカップに口をつけようとしながら松林准教授はシレッと言った。
チッ、と剣崎刑事は目の覚めるような舌打ちをした。忍耐強い刑事さんでさえも、さすがに松林准教授の態度にはイライラするらしい。
「出水さんの女性関係については一度お尋ねしていますよね? どうしてあの時、すべてを話してくれなかったんですか?」
「その女はもう警察に任意同行されて事情聴取を受けているのだから、僕が改めて話す必要は無いだろう。容疑者が二人になったから、あんたたちは僕に、もう一人の女である例のメイドの事を訊きに来たんじゃないのか?」
「はあっ!??」
全然、事実と違うんですけどっ。何言ってんの、この人っ!??
その場に居た全員が事態を理解できずに
「どういう事だ? 何の話をしている?」
松林准教授はさすがに察しが良い。
自分が状況の全体像を
美波ちゃんは
「この写真、昨日も見てもらいましたよね。あなたが出水さんにテトロドトキシンを返してくれって話した現場に、この女性は居なかったって言いましたよねっ!?」
「あ、ああ、居なかったよ。それに、その女には会った事も無い」
松林准教授は気押されたようにおどおどしながら答えた。
どうも話がちぐはぐだ。
でも、これでやっと、松林准教授は徹底して「自分が無駄だと思った話」はしないタイプだと分かった。
俺たちは──剣崎刑事でさえも──彼からはこちらが必要な情報を引き出すことが出来ていなかったのだ。
「あの、誤解があるようなんですが……」
話を整理しようと俺が口を開きかけた時、松林准教授の真向かいに陣取っていた剣崎刑事が苛立ちも
「我々が任意で事情を
美波ちゃんも
「そうです。事情聴取を受けているのは私のお姉ちゃんです!」
◆◆◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます