『1、ひきこもりですが働きます』
正直、俺は二十一歳になっても自分がひきこもりだという事を苦にしていなかった。
自分の部屋は快適だ。実家はぶっちゃけ
物心ついた頃には俺に与えられていた二階の子供部屋は俺の好きなモノであふれている。漫画、小説、ゲームとアニメのソフト、映像機器、ゲーム機器、パソコン、興味を持ったモノはたいてい揃っている。
しかも南向きで日当たりと風通しが良い上、
最高の
ちなみに我が家は、母=
リビングに
俺は
そんな理想的な家庭で、好きな時に寝て、好きな時に起きて、食事も
世の人々が
本当に、何ひとつ悩んでいなかった。
ただなんとなくひきこもりになり、なんとなくひきこもり続けていた。
自宅で過ごす事が
ところがだ。その
青天の
ある四月の昼下がり、満面の笑みを浮かべ、お目々キラキラ状態の、実年齢より二十歳は若く見える、
「ねえねえ、まーくん。ママの知り合いのクリニックで
俺は、たっぷり三十秒は固まった。
「は? 歯科助手って……なに?」
「歯科助手は歯科助手よ。知らない? まーくん歯科クリニックで半年に一度は
はあ、まあ、歯医者には
「で、
「ちょっと待ってくれ……」
「あ、歯科助手は、
「そうじゃない。そこを気にしてるんじゃないっ!」
今の話には突っ込みどころが多過ぎる。
まず第一に、俺は高校卒業以来三年ちょいひきこもり生活を
第二に、なぜ初めて進められた職が『歯科助手』なのか、そこも意味が分からない。
第三に、何の資格を持っていないとわざわざ実の息子を
「ちなみに、母さん……俺、歯科助手って女性しか見たこと無いんだけど……?」
「あら、それはたまたまよ。男性
うっ、そう言われてしまうと
また、なんとしてでも働きたくないかと言われれば──なにしろ、なんとなくひきこもって、なんとなくひきこもり続けていた俺だ。何も
つまり、俺は、今までの人生で特に
なんとしてでも働きたくないという程の強い意志は無かった。
「まーくん、バイトしてみよ? ね?」
残念ながら、意思薄めの俺に鋼の心臓は無かった……
◆◆◆
結局、俺は母親の熱心な
そうなると、歯科助手について少しは調べておこうという気が起こった。
ここから先の ひとかたまり は読み飛ばしてくれていいのだが……
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まず歯科医は分かる。
そして、俺が母親から勧められた歯科助手だが──こちらは、
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「なるほど……」
俺は
別に歯科助手が嫌だというのではない。国家資格が無くても就労できるという条件はありがたい。ただ、仕事の内容が面倒臭そうだと思ったのだ。
当たり前だが、他のどんな仕事も未経験なので、働くという事がどんな感じなのかそもそも想像がつかない。
ましてや歯科助手なんぞ完全に未知の
俺も分からない。
治療の
それなのに、だ。
俺が「やれ」と言われたバイトは、よりにもよって、そのれっきとした歯科医師が行う医療行為の介助である。自分の部屋の掃除ですらろくにしたことの無い俺に、そんな仕事が
しかも、歯科助手は
考えれば考えるほど
しかし──
面接に受かるとは限らないではないか!
そうとも!
そこに救いの道がある!
バイト
その、
◆◆◆
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