『2、三つのdone it』
翌日──月曜の午後、俺は
(野村女史も吉川先生の横に並んでいたので、ゲンナリ気分も混じってしまったが……)
吉川先生、今日も綺麗だ──っ!!
スラリとした立ち姿はまるで白い百合のようだ。
白衣の下には、淡い若草色のシンプルなワンピースを着ていて、上品なメイクとまとめ髪にスクエアカットのダイヤのピアスがよく似合っている。相変わらず女優のような華がある。
しかも、吉川先生は穏やかで優しい。
こんな美人と付き合える男は幸せだよなぁ。
いいなぁ、とうっとりしていたら、すかさず野村女史に怒鳴られた。
「ボーッとしないっ! サッサと午後の診療の準備してっ!」
「は、はい、すみませんっ!」
俺はスタッフルームに
どんな
野村女史……歯科助手としては、たぶん優秀なんだよなぁ。そこは素直に認める。
決して美人ではないが、
しかし、俺はたまたま仕事を教わる立場になり、仕事をマトモに教えてもらえないという虐めを受けてしまったので、野村女史の本性を見てしまった。
怒りのスイッチがどこにあるか分からず、気分が不安定ですぐにキレるし、吉川先生が俺に対するパワハラに気付いていない事からも分かるように、後ろ暗い事=
考えれば考えるほど、野村女史への
午後四時半頃──
少し患者の流れが
「あのぉ、野村さんって、出水さんが亡くなった日の夜、何してました?」
「はっ!? 出水さんを失って
「す、すいませんっ」
「家で映画のソフト見ながら、一人でごはん食べてたわよ」
「え? 出掛けたり、誰かと会ったりしなかったんですか?」
「なんでそんな事聞くわけ? 別に、どこにも行かなかったし、誰にも会ってないわよ」
相変わらず理不尽にキレられたが、犯行時刻の野村女史の行動はアッサリ分かった。
アリバイは無く、動機はある──
やっぱり、この人が出水氏を殺害したのだ。
もはやそうとしか思えない。
野村女史は吉川歯科クリニックの近所に住んでいるらしい。つまり、うちの近所でもある。
うちの
俺たちが剣崎刑事にしたように出水氏の持ち物か、あるいはヨットにGPS発信機を
モーターボートを使ってヨットを追いかけ、エンジンを切って、どこかで
出水氏が亡くなったのは夜も更けてから。辺りは真っ暗だっただろう。凪砂さんが
出水氏を毒殺した後、モーターボートで港に戻り、
ちなみに、昨夜のうちに検索して調べておいたのだが、三メートル以内のサイズで二馬力までのモーターボートなら、
もちろん野村女史にもだ。
数日間借りっぱなしのレンタルプランもあるので、一旦ハーバーに
そうして犯行を終え、何食わぬ顔で出勤し、ニュースを見て初めて出水氏の死を知ったような演技をしていたとも考えられる。思い返してみると、出水氏が亡くなったというニュースを俺たちに知らせて来た時の野村女史の反応は
うん、怪しい。
なんたって、野村女史には犯行が可能だ。
ただし、
俺はついに「ホワイダニット=なぜ」と「フーダニット=誰が」が明らかになったと確信していた。犯人は、凪砂さんでなければ、野村女史に違いない。
最後に残った、たったひとつの謎は「ハウダニット=どうやって殺したのか?」だけだ。
◆◆◆
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