『3、運命のひらめき』
さて、その日、俺が診療介助を任された二人目の患者はC3のう
ここから しばらく 読み飛ばしてくれて構わない。
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RCT=根管治療と、それに続くCRF=
ちなみに、歯科医師は根治を始める前に、患者に分かりやすく伝える為に「神経を抜きましょう」と言ったりもする。
説明が複雑で面倒臭く感じられるだろうけど、実は「根治」の段階なら、仕事を始めて一週間と少しの新人歯科助手の俺でも(かなり努力すれば)診療介助に付ける。歯科医師や歯科
そういうわけで、例え歯科助手がバイトだったとしても不安は感じないで欲しい。
歯科医師のみが、安全に、責任をもって、親切丁寧に、治療をするので、歯医者って実は怖くないんですよ──と、誰にとはなく伝えておきたい。
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まあ、ごちゃごちゃした話はともかく……
「カルシペックス取って」
「はい」
応じてキャビネットの引き出しを開けた瞬間、俺は奇妙な違和感に包まれた。
カルシペックスが一本しか入っていなかったのだ。
カルシペックスは、
俺は、野村女史のあまりにも酷過ぎる指導によって、不本意ながら課せられた、短いが濃い経験で「ある事」を暗黙の
仕事にはリズムがある。だからイレギュラーな要素は嫌われる。
普段、そこに無いものは、あってはならないのだ。
妙な胸騒ぎが起こり、診療の合間、少し手が空いた時に俺は野村女史に確認してみた。
「あの、キャビネットの引き出しにカルシペックスが一本しか入っていないんですけど、
「は? なに言ってんの? あれは一本入っていれば充分なの。二本も置いておく必要無いんだから余計な事しないでっ!」
またキレられた。
──っていうか……ちょっと待て……
カルシペックスは通常は一本しかキャビネットには置いていないという事か。
じゃあ、あの日、どうして二本あったんだ──?
その瞬間。
俺が初めて出水氏を見た日──歯科助手のバイト初日──出水氏が奥歯の治療に訪れたあの日の記憶が、フラッシュバックのように脳内に蘇った。
あの日、野村女史は出水氏の治療の診療介助には付かなかった。俺に患者のデータ管理の仕方と保険証の種類を説明するという指導をしていたからだ。
吉川先生は、レントゲン撮影から、麻酔、診療用バキュームの必要なRCT(
他には一度も無かった──
吉川先生は慎重な人で、必ず診療介助を付けた。それが患者の安全を確保し、治療の質を
ならば、なぜ、出水氏の治療に限って、吉川先生は一人で行ったのか?
なんだか妙に気になって、診療と診療の隙を見て、俺は出水氏のカルテが収められたクリアファイルをこっそり確認してみた。
思わず、息を飲んだ。
あるべき物がそこには無かったのだ──
撮影したはずのレントゲンフィルム=パントマが無い。
あの日、吉川先生はレントゲン室で何かを片付けていた。
嫌な予感がする。俺は
そして、そこには、あるべきではない物があった──
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