『4、妹には逆らえない』
野村女史が、出水氏が亡くなった時にヨットに同乗していた女性の事を「名前も報道しろ」と推定無罪の原則も人権も無視して
まさか、あの野村女史があれほど知りたがっていた女性の名前を、こんな
凪砂さんは某短大を卒業し某銀行に勤めている二十五歳の、優しいが、どちらかというと
美波ちゃんがスマホで撮影したお姉さんのバースデーパーティーの動画を見せてくれたが、ナチュラルメイクで地味な服装の
とりあえず、弁護士を雇う費用が
「お兄ちゃん、ちゃんと話聞いてた? 私たちは、美波のお姉ちゃんが逮捕されないように、真犯人を探して欲しいのっ!」
「で、でも……
言葉を
「ちゃんと聞いてください、お兄さんっ! お姉ちゃんは無実なので被告じゃありません。今現在、殺人事件の容疑者として警察に
美波ちゃんにキッパリと
言われてみればその通りだ──っ!!
無実の罪で拘束されて平和な日常生活や仕事を奪われたら
凪砂さんが無実ならば、真犯人は自分の犯した罪から
「お兄さん、信じて下さい。私のお姉ちゃんは無実です。出水さんはお姉ちゃんの初めての恋人です。結婚を
美波ちゃんは涙を浮かべ、必死にお姉さんの無実を
「それに、出水さんのヨットで海を見に行くのはいつものデートコースだったんです。姉は『
こんな少女に嫌な事を言わせてしまった。そこまで言いたくはなかっただろうに……
俺は、なんとも言えない気持ちで頷いた。
「分かった。信じるよ……」
真実は
凪砂さんの無実を証明する為に何が出来るか分からないが、まずは、事件の
「昨夜遅く、太平洋上のヨットで男性が死亡していたとのニュースが先ほど入りました。同船していた女性からの通報を受けて海上保安庁の職員が現場に到着すると、すでに男性は息をしていなかったとの事です。その後ドクターヘリで病院に搬送され、男性の死亡が確認されました。男性は都内に住む出水頼次さん三十一歳です。神奈川県警は同船していた女性を任意同行し事情を聴いているとの事です」
ニュースの文言を
「殺害現場は陸地から遠く離れたヨットの中か……」
出水氏は太平洋上のヨットで死亡した。これは確定だろう。
ニュースでよく使われる「病院に搬送された後に死亡が確認された」という言い回しは、発見された時点で生きていたという意味ではない。医師のみが死亡確認が出来るので、どう見ても死んでいても「息をしていない」としか
容疑者は一人だ。
なぜならば、ニュースにおける「同船していた女性を任意同行し事情を聴いている」という言い回しは、出石氏が死亡した際、現場になったヨットには出水氏と事情聴取をされている女性──つまり、凪砂さん──の他には誰もいなかった事を示す。
他にも同船していた人物がいるならば「事件の起きた際、現場に居て、事情を知っていると見られる複数の人物に任意同行を求めて話を聴いている」というような言い回しになるからだ。
「あれ……」と俺は首を
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「これって、いわゆるミステリーで言うところのクローズドサークル、しかも
「お兄ちゃんっ、なに言ってんのっ?」
「あっ、確かに。別の誰かが何らかの方法で太平洋上に浮かんだヨットまで
「いや、そういう話じゃなくてっ!」
「そうだな、すまん。これは厳密にはクローズドサークルじゃなかった」
ゴンッ。不謹慎な考えしか湧かなかった俺は芽衣に殴られた。
「いってぇ……」
「お兄ちゃんっ、いいかげんにしてっ!」
ううむ、どんどん兄の
世の中には
「実は……被害男性の出水氏は、俺が働いている吉川歯科クリニックの患者だったんだ」
「え、そうなのっ?」
「出水氏は吉川先生の知り合いで、それなりに付き合いはあったみたいだよ」
二人の関係は実の所よく分からないが、俺は適当な事を言った。吉川先生が出水氏の事を嫌っている様子だったと言う事は、この場では
「じゃあ、その吉川先生ってひとに訊けば、出水さんの交友関係が分かるし、その中に出水さんを恨んでいた人がいれば、その人には出水さんを殺害する動機があるって事になりますし、真犯人の
「え……?」
なぜか
「いや、まだそうとは言えないから、期待するのは良くないかと……」
俺は慌てて訂正しようとしたが、女子高生二人は物凄く前のめりだった。
「やったね、美波。さっそく手掛かりゲットだよ」
「やっぱり芽衣を頼って良かった。お兄さん、ありがとうございます」
ちょっと待て……君たち慎重って言葉知らないの?
芽衣と美波ちゃんは期待に満ちた顔で俺の顔を見詰めている。
「だ、だから、その……まだ手掛かりは……」
「分かった。明日、吉川先生に何か心当たりが無いか訊いてみよう」
きゃあ、と女子高生二人は
◆◆◆
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