第三章
『1、刑事の尾行は甘くない』
そうは言っても、だ。
無実の罪を晴らすという事は実は物凄く
その為、何かをやっていない事を証明する事の難しさを示す──『
まあ、要するに、誰かの無実を証明するためには、その誰かとは別の罪を負うべき人物──
今の状況は、希望が見えたように思えて、その実、神奈川県警の捜査一課(刑事になるのも
あ、これ、無理だ。家に帰って寝よう……
俺は
「お兄ちゃん、何やってるの? 刑事さん行っちゃう。追いかけなきゃ!」
「ボーっとしないでください、お兄さん!」
うわっ、クソ眠いのに走れってのか?
なんでこんな目に
やけくそで剣崎刑事を追いかけ、俺たちは自宅や吉川歯科クリニックの
ちなみに、
次の
ここで電車に乗られると困る。
どうやって見付からずに
小説などでは電車での尾行には
「どうしよう?」
さすがに芽衣にもそれは理解できたようでオロオロし始めた。
俺は
「捜査のプロ相手にこれ以上の尾行は無理だ。
「バカッ!」と芽衣と美波ちゃん、二人から
やだ、もう、怒られるのキツイ。
俺は怒られたくない一心で適当なアイデアを出した。
「
「そうだね。お兄ちゃんのトートバッグに入ってるGPS発信機を、なんとかしてあの刑事さんのカバンに忍び込ませよう。誰かが話し掛けて注意を引いている
「え? 今、なんて言った?」
「だから、刑事さんに話しかけて背後から……」
「いや、その前」
「お兄ちゃんのトートバッグに入ってるGPS発信機を使おうって……」
いやいやいやいや、おかしいでしょ、その流れ。なんで俺のトートバッグにそんなモノが入ってるとか言い出すわけ? ご都合主義にもほどがあるだろっ!!
内心ではめちゃくちゃ突っ込んでいたが、さすがに可愛い妹に厳しい事は言えず、俺は優しく
「芽衣……なんで俺のトートバッグにGPS発信機が入ってるなんて思ったんだ?」
「ママが入れてるから」
「はあ?」
なにソレ? つうか、そもそも、それ何の話──?
「なんで母さんが俺のトートバッグにGPS発信機を入れてんの?」
「お兄ちゃんの居場所は常に把握しておく必要があるから──って、ママが」
ペロッ、と芽衣は舌を出した。
あ、これ、嘘をついてる時の仕草だ……
つうか、なんでだよーっ!
これ、
うっ……いや、しかし……
母さんが俺を信用していないという可能性も、実は否定できないっ!!
芽衣なのか、母さんなのか、分からん──っ!!
もしも母さんだったとしたら……息子の居場所って常に
ひきこもりだから犯罪が心配だとか思われてるって事かーっ?
実の母親からまったく信用されていない可能性も否定できず、自分の情けなさを思わず
きっと、母さんは俺が迷子にならないか心配なだけだ。
そうだ。そうに決まってる──っ!!
俺は色々と人間的に大事なモノを
「よし、分かった。それを使おう。俺が刑事さんの気を引くから、おまえたちがそのGPS発信機をあの人のカバンに
GPS発信機を他人のカバンに忍ばせて
しかも相手は神奈川県警捜査一課の刑事だ。
バレたらヤバイなんてもんじゃない。
だが、迷っている時間は無い。
剣崎刑事は、もう改札のすぐ近くにいる。
「芽衣、美波ちゃん、どっちでもいい、ハンカチを持っていたら貸してくれ」
はい、と二人そろってハンカチを差し出さる。芽衣のは白いレースの付いた花柄ピンクの乙女チックなもので、美波ちゃんのはシンプルな茶系のタータンチェックだった。
一瞬迷ったが、あの女性刑事に似合いそうな茶系のタータンチェックのハンカチを引っ掴む。
「こっちを借りる。俺があの人の気を引くから、分かるよな?」
言って俺は
「待ってくださぁい、刑事さぁんっ! ハンカチ忘れましたよーっ!」
幸い俺の必死の叫びは届いたようで剣崎刑事は振り返り、その場に立ち止まった。全力
「私のじゃないわよ」
「お、おかしいな……よ、吉川先生が、け、刑事さんが忘れたんじゃないかって……」
ゴフゴフッとそこで
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。俺の事は気にしないでください」
ちらりと背後に目を向けると、少し離れた
うわっ、地味に
「あっ!」
やけくそになった俺は改札の向こうを指差して素っ頓狂な声を上げた。
もう、なりふり構っていられるか。
剣崎刑事は「どうしたの?」と言いながら、俺の指差す方を見てくれた。
俺は周囲の人たちの痛い視線に耐えながら「あっ! あっ! あっ!」と
よし、立ち位置を入れ替える事に成功したぞ。
剣崎刑事の視線も上手い具合に芽衣と美波ちゃんの居る側と反対に向いた。
頼むぞ、二人ともっ!
「す、すみません……猫が
「なんなのよ、もう……」
芽衣と美波ちゃんはチャンスを逃さず、素早く剣崎刑事の背後に近付いて来ていた。剣崎刑事は二人の気配に気づいていない。
よし、あと少しだ──
「それはともかく、今日は天気が良いですね」
「なに言ってるの? 雲が多いし、午後から
「あ……い、言われてみれば
あはは、と俺は笑った。わざとらしい会話をしている隙に、芽衣と美波ちゃんは剣崎刑事の背後に立ち、スルリと芽衣がカバンにGPS発信機を滑り込ませた。
俺は
あーっ、死ぬかと思ったーっ!
「変な子ね……とにかく、そのハンカチは私のものじゃないわ。用が無いなら、もう行くわ」
「え、ええ、どうぞ。お引止めしてすみませんでした」
剣崎刑事は
ああっ、一生分の気を
◆◆◆
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