第1章 渡航 第4話
紹介された銃は、SAKO75というライフル銃で、口径は.223、先端には日本国内では所持すら禁止されている消音機(サプレッサー)が装着できるように加工されていた。
松山が加わることになったときから、すでに銃砲店との相談が始まっており、所持許可に必要な書類等もすでに準備されていた。
日本では、散弾銃を所持してから10年を経ないとライフル銃を所持することができないが、松山は3年目にしてライフル銃を所持することになったのだ。
ここ最近のジムのところの主な仕事は、国立公園内でのシカの駆除とのことだったが、正直なところ.223の弾を見たときには、これでシカを倒せるのだろうかと心配になった。
.223の弾頭は、直径5.56mmしかない。これまで、シカの捕獲には、スラッグ弾しか使ったことが無かった松山にしてみれば、こんな小さな弾で…と不安に思ったのだ。
さらに、日本では所持すら禁止されている消音機(サプレッサー)を手にした時には、これで銃声が消えるのかとも思った。映画の中でしか見たことのない消音機の効果は、どれほどのものなのか興味もあれば疑問もある。
入国してからのこの一日は、「初めて」に出合うことばかりで、過去2年間の学習と同じか、それ以上の情報量が入ってきた気がした。
幸いなことに、日本との時差は4時間だ。アパートに戻ったところで、松山は疲れ果ててぐっすりと眠った。
翌朝、Risaに起こされた松山は、昨日指示されたとおり、オークランド市内にある語学学校へと出向いた。ここで、1か月間、日常英語を中心に英会話を学ぶことになっている。
ともかく、一日も早く英語に慣れないことには、研修するにも通訳が必要となってしまうし、ジムにも迷惑をかけることになってしまう。
ここにきて松山は、これまでに感じたことのないプレッシャーを受けていた。
「Risa,大変だ。俺、ヤバいかも・・・。」
「何を言ってますか。私は、日本語だいぶ喋れるようになったでしょう。同じことです。ということで、今から日本語禁止です。」
「え~、勘弁してよ」
「Shut up!」
ということで、この瞬間からRisaは、松山が日本語で話しかけた時には、聞こえていないふりをするようになった。
Risaが日本に戻るのは、一週間後であり、それまでにある程度の日常会話をこなせるようにならなければ、研修そのものが頓挫しかねない。
日本で、Risaから英語を教わっていたこともあり、三日目には耳が英語に慣れ、最初は何を言っているのか聞き取れなかった会話がなんとなく聞き分けられるようになってきた。
日本学んだ英語との大きな違いは、aの発音であり、これには戸惑った。
例えば、「Have a good day.」という挨拶は、「ハバグッデイ」という音で耳に残っていたが、ニュージーランドでは「ハバグッダイ」と聞こえるのだ。
aを「ai」と発音することに耳が慣れるまで、しばらく戸惑いがあった。頭の中で、聞いた言葉を文字に置き換えて、翻訳してというイメージがしばらく続いたが、耳が慣れてくると聞いた言葉がそのまま意味のあるものとして理解できるようになってきていた。
僅か一週間ではあったが、Risaを空港に見送りに行く際には、ほぼ日常会話での不都合が消えていた。
ニュージーランドへ渡ることを決めた時から、日本国内でのRisaとの学習や、この一週間の現地でのトレーニングの成果は大きかった。
ジムのところのスタッフがバカンスを取得している間に、まずは松山の英語力を高め、そのあとでスタッフに引き合わせるというスケジュールは、ジムの妻であるアグネスの提案であった。
遠い外国で、言葉が通じない状態では、研修を進めるにも不都合が多いだろうし、銃を使う仕事となれば言葉の壁は生命に関わる事故にも繋がりかねない。
松山もそのことは十分理解できただけに、3か月間の語学学校での学習に全力で取り組んだ。
バカンスから戻ったスタッフとの顔合わせ以降は、語学学校が休みの日にスタッフの趣味である釣りやキャンプに連れ歩かれ、そこで語学学校で学ぶ以上に英語力を高めることができた。
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