第2章 ニュージーランドハンティング 第2話

 現場は、ジムの事務所からほど近い田園地帯であった。


 日没後、樹上にいるオポッサムを懐中電灯で照らしながら撃つとのことだった。


 月もない暗い夜だったが、トムはライフルの銃身の下側に懐中電灯をテープでとめると、

「さぁ、行くぞ」


と松山にも同じように懐中電灯を銃身の下にテープでとめた銃を手渡した。


 夜間での射撃は日本では禁止されているが、こちらではかなり大らかに実施されているのに驚いた。


 日本では、認定鳥獣捕獲等事業者制度の中で、安全管理講習会と射撃技能の確認を受けることで、行政が行う指定管理鳥獣捕獲等事業の中でのみ夜間銃猟が実施できるのと比較すると大違いである。


「シカでも夜間に撃つことはあるのですか」

とトムに聞いたら、


「シカを夜に撃つことはない。日本では撃つのか」

と聞かれたので、


「特例的には許可されることもある」

と回答したが、


「シカを夜撃つのは危ない。ヨーロッパの罪人たちの子孫の俺達でも、 そこまで無茶はしない」(※)

と言われたが、オポッサムなら良いのだろうかといのも正直な疑問であった。


 牧草地の間に点在する樹林帯周辺を歩きながら、懐中電灯で樹間を探していく。

 

 キラッとオポッサムの目が懐中電灯の明かりで光ると、銃を構えて、その目と目の間を狙って撃つのだ。最初の1頭をトムが撃つと、


「さぁ、マツ。やって!」

と声を掛けながら、銃についたスリングを、たすき掛けに肩に背負った。


 「もう、俺は撃たないから、あとは君が撃て」

ということだ。


 20時ごろから始めた猟であったが、23時までに12頭のオポッサムを仕留めることができた。


 「マツ、上手いな」

 トムの言葉は、松山にとって嬉しいものだった。


 後々考えてみれば、松山にライフルを持たせて、一緒に仕事の現場に連れ出しても大丈夫かを試すための実地試験だったと気付いた。


 専門学校で学んだ銃器の取り扱いは、ニュージーランドのプロハンターから見ても、問題はなく、安全に十分配慮し、取り扱いに慣れていることが伝わっていた。


 さらに、失中が一発もなかったことは、トムから見ても、上手いと言えるレベルの射撃スキルだったらしく、翌週にはジムから、スタッフと一緒にシカの捕獲現場へ同行することを許されたのだった。

 

 シカの捕獲現場は、南島のRaukūmara Forest Park(ラウクマラ森林公園)内であった。スタッフは、4名でテントに宿泊しながら一週間連続で周辺のシカ捕獲をするとのことであった。

 

 まだ松山は銃を所持できていなかったが、スタッフの作業をサポートしながら、ジムの会社の仕事内容を把握することを狙いとしていた。


 宿泊先のテントは、日本のキャンプで良く使うようなドーム型ではなく、家型で内部には、簡易ベッド、ストーブ、冷蔵庫までが置かれており、ちょっとした山小屋に近いものであった。

 

 簡易ベッドは、X字型の脚で地面から30cmくらいの高さに寝るためのシートがついていて、その上にロールマットを敷き、寝袋と毛布を使って休むようになっている。


 地面への放熱を避けられることや、椅子として使える。

 

 ストーブは、テントの中央に置かれており、その周りにベッドが配置されている。ストーブの燃料は、基本的には薪を使うが、ここではウッドチップを圧縮加工したペレットを使用していた。


 ウサギの餌のようなペレットが、自動的に供給されるように工夫されていて、その速度を調整することで火力が調整できるようになっている優れものだった。


 テントの天井部には、穴の開いた不燃性のシートが50cm×50cmであり、そこからストーブの煙突が屋外に突き出ている。


 このストーブは、調理器具を兼ねており、天候が悪い日でも屋内で調理作業をすることができる。


 通常は、料理の匂いが付くことを避けるために、屋外に設置してある調理スペース用のテントで調理は行われている。


 そこには、プロパンガスが置かれており、一般家庭での調理となん変わりのない作業が行える。


 冷蔵庫もその傍に設置されているが、蓄電池とソーラーパネルで運用されている。さすがに、製氷する速度は遅いが、スタッフ全員の一週間分の食料がストックされるだけの容量を有しており、どうやってこんな山奥まで運んだのかと思える代物だった。


※実際にお会いしたニュージーランド人ハンターの発言だったため、そのまま掲載させて頂いています

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