第7章 帰国 第3話
脱線したのは、Risaとのその後への質問くらいだったろうか。
Risaがカナダへと移住したことで、友達としての繋がりはあるが、彼女とは呼べなくなった存在となったと報告したところで、男の同級生からは、「気を落とすな」という言葉を掛けられたが、既にそのような心境は過去のことであった。
新たな職場で活動している同級生らの周囲にもいろいろと変化があり、そのひとつひとつは、松山の一年間と同じ時間を経ている訳で、語ろうと思えば一晩中でも語れる出来事がたくさんあったらしいが、今回の主役は松山だった。
ニュージーランドに戻る日には、両親と瀬名、後田が空港まで見送りに来てくれた。
今後は、日本の夏休みに瀬名が現地を視察して、学生が体験する具体的な研修案を試験的に実施することで、約三ケ月後の再会を松山と約束してのお別れとなった。
ニュージーランドへの飛行は、帰国時とは異なり、極めて快適に、予定どおりに進んだ。
オークランド空港には、ニコルが迎えに来てくれていた。彼等へのお土産は、日本的な小物をいくつか買い込んできたが、扇子、箸などは、特にオリバーが喜んでくれた。
会社へのお土産として購入した玩具が、一番受けたが、日本よりも国外での方が、認知度が高いらしく、ジムの子供たちはとても喜んでくれた。
八分音符型をした電子機器で、その名も「オタマトーン」。尾の部分を触ると音が出て、頭の部分を触って口を開けると音色が変化する楽器である。
これには、正直なところ子供だけでなく、大人たちもハマりまくった。練習を重ねて一曲弾けるようになったのは、手先の器用なウィリアムだった。
ある日のミーティング後、突然ウィリアムが、
「みんな、聞いてくれ。俺から発表がある」
という言葉から始まり、彼はオタマトーンを使って見事に「マイウエイ」を演奏したのだった。
スタッフからの賞賛を受けて、その後も彼はいろいろな曲に挑戦するべく、自ら通販で「オタマトーン」を購入し、暇があれば練習を重ねて、半年後には地元テレビにまで出演するまでの有名人となっていた。
スタッフは、いずれも凝り性であり、日本人とも似た気質をもっている。オタク文化は、日本が老舗だが、彼らの中にも同じようにオタク文化があり、松山も驚かされることが多い。
まぁ、そのような凝り性の集団が考えることだから、僅か5日間の実習でも、いろいろなアイディアが出てくる。
さすがに、金額が高いヘリコプターハンティングは難しいが、安くて面白い企画をジムが募集し、瀬名が訪れる夏休みまでに実施できるように松山を中心に準備を進めることとなった。
簡単にできて、面白いのは松山も経験させてもらった、オポッサムの猟だろう。これは、最初の日のメニューとして決まった。
フィッシングも候補となったが、10月から6月がシーズンのため、日本の夏休みの時期とは合致しない。
やはり捕獲を主体としたメニューを考えなければならなかったが、ATVやスノーモービルなどの機動力を体験するメニューは、学生受けが良さそうとのことで採用となった。
20種類を超えるアイディアが出されたが、「オタマトーンの演奏会」が最終日のメニューに入ることを、松山には阻止することができなかった。
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