第7章 帰国 第2話

 翌朝、目が覚めたのは、昼頃だった。母親は、仕事で不在だったが、父親は仕事を休んで在宅していた。


「おはよう」


「うん」

男親と息子との一年ぶりの会話は、この程度なのであろう。


 夕方に母親が帰宅してからは、母親の質問攻めで、この一年間を事細かに時系列で話すようであったが、父親は横で頷きながらずっと聞き入っていた。


 今回の帰国の目的は、専門学校の学生をニュージーランドでの短期研修へ招くことができないかという打合せのためであり、ジムの会社からのオファーではなく、学校側からの提案に基づくものだった。


 帰国した翌日は、疲れもあるからと、翌々日に打合せを設定していたので、今日はゆっくりすることができた。


 母親からは、生活全般の質問攻めだったが、父親はマルの訓練に大いに興味を示した。


 携帯で撮影した動画や画像を見せながら、ニュージーランドでの犬の訓練方法や実際の現場での使役方法などは、かなり関心があったようで、後半は父親からの質問攻めで終わった。


 夕食は、三人で寿司屋へと繰り出して、久しぶりの和食を堪能することができた。


 いずれにしても、時差がないだけに、長距離の移動ではあったが、直ぐに日本の生活リズムに入りこめたことは、翌日からの打合せを控えた松山にとっては有難かった。


 翌日の打合せは、学校の事務局長と同級生だった瀬名と3名で学校の会議室で昼過ぎから夕方まで行われた。


 まずは、久しぶりの再会に、ニュージーランドでの活動の様子などを、昨日に続き二人からの質問攻めとなったが、家族以上に内容的に実際を知っている瀬名からは、かなり突っ込んだ質問もあった。


 そのため、横で聞いていた事務局長は、少々専門的すぎて付いてきていない感じとなったので、松山から本題へと軌道修正を図った。


 まずは、学校側の構想の説明から始まり、日本の夏休みか冬休み期間中に希望者数名を一週間程度送りたいという実施規模が示されたところで、ジムから伝えられた条件面について松山から説明した。


 結局は、捕獲シーズンと重なることから、夏休み中の実施が望ましいこと、7日間の予定で、1日目と7日目が移動日となるため、中5日間を二日研修、一日休日、二日研修というスケジュールとすることで、細かい内容は今後更にメール等で詰めていくことになった。


 観光もできるようにという配慮から、一日休日を入れることになったが、移動手段などを考えると、結局スタッフ1名が専属でアテンドしないと動けない。


 まぁ、会話のこともあるので、ジムも松山がいればこそ引き受けるというのが本音だったろう。


 一方で、ニュージーランドでも若手の捕獲従事者は不足気味で、基礎訓練が終了している専門学校の卒業生を定期的に採用できれば、人材育成のコストを抑えることができる。


 松山が今後何年間、ニュージーランドで活動するかは未定であるが、松山が仮に日本に戻ったとしても、彼の後任者がいれば問題はなく、専門学校側とジムの会社との間にはウインウインの関係が構築できる算段だ。

 

 松山の帰国は、一か月と いうことであったが、その間に瀬名が幹事となって、同窓会が開かれた。


 その席には、ワイルドライフマネージメント社の山里ら数名も参加して、ここでも松山は質問攻めとなった。


 家族、学校、同級生、さらにお世話になったワイルドライフマネージメント社のスタッフへと、質問の内容は次第に奥深いものとなっており、質問されたことで松山もこれまで気づいていなかったことなども発見することができて、一年ぶりの帰国は、仕事上の打合せ以上に実りの多いものとなった。


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